住民投票での決着になるのか――宇都宮市のLRT計画:杉山淳一の時事日想(6/6 ページ)
LRT(軽量軌道交通、新型路面電車)導入を推進してきた宇都宮市で、ついに市長が2016年度着工の意向を示した。導入反対の立場を取る「民意なきLRT導入を阻止する会」は住民投票を求めて署名運動を展開している。LRTの賛否、民意はどちらにあるのか。
住民投票で決着をつけよう
これに対し、宇都宮市のLRTは「クルマは敵」という政策に終始しているように見える。宇都宮市をどんな都市にしていくのか。その中でLRTをどう整備していくのかという議論がない。宇都宮市でも中心部に移住しようとする「若年夫婦世帯家賃補助制度」があるが、「夫婦のいずれもが満40歳未満の若年夫婦世帯に対して、月額上限3万円及び最長60カ月を限度に家賃補助」というもので、適用範囲が限られている。中心地区を活性化させたい狙いがあるが、公共交通機関を生かす街づくり、という思想ではない。
宇都宮市のLRT計画は、局地的な渋滞解消案にすぎない。メリットを受けるエリアが小さい上に、クルマやバスを排除する内容だ。市民から交通手段の選択肢を奪おうとしている。これではメリットを感じないエリアの人々は無関心のままだろうし、現在、市民の大多数を占める自動車利用者の反発を受ける。バス会社にとっても駅前乗り入れが抑制されると死活問題だ。
私は鉄道好きの立場だから、特に思慮なく「あっちこっちにLRTができたらいいな」と思っている。宇都宮のLRTが実現したらいいと思う。しかし、推進側も反対側も、LRT問題を「LRT単体の要か不要か」に終始している。これでは、LRTがあってもなくても、市民全体の幸福度の向上にならないような気がする。この状態で、LRT推進へ合意形成していくためにはどうしたらいいのだろうか。
宇都宮市は市全体の街づくりを再定義した上でLRTの有効性を市民に訴えるべきだし、反対派はNOというだけではなく、対案を出したらいい。LRTなしで渋滞を解消し、バスとマイカーで住みやすい街づくりができるかを提案したらどうだろう。住民投票は両者の案が出た時点で、市民の選択として実施したほうがいい。
ただし、12月8日までに有権者数の50分の1の署名が集まり、住民投票の実施が提案されたら、議会は実施を採択すべきだ。それから投票までの間に、推進派、反対派それぞれが宇都宮市をどうしたいかをアピールしよう。住民投票で賛成を得れば、LRTの建設はいままで以上に促進されるに違いない。反対派は「民意なきLRT」に反対しているのであって、民意があれば反対する理由はない。反対派からの住民投票提案だが、賛成側にとってもチャンスだといえる。
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