カリスマ投資家はなぜコミケで“萌え”系マネー同人誌を出したのか?:五月&雄山スズコインタビュー(6/7 ページ)
仁義なきマネー戦争が繰り広げられる金融市場。その金融市場を題材とした“萌え”系の同人誌が、なぜか個人投資家たちによって作られ、コミケで人気を集めている。彼らはなぜ投資をテーマとした創作活動を行うのか。その動機とモチベーションに迫る。
同人誌という形には限界も
――そして直近の夏コミの『東方マネー2013年夏号』はまた全然違いますね。表紙が明らかにマネー誌の『ZAI』ですが(笑)。どういう意図で作っていたのですか。
五月: マンガで2冊作ってそこそこ売れたのはいいのですが、どうも内向きになっている感じがあったのです。内輪ノリというか、知っている人だけが楽しめる作品になっていたので、今度は思い切りマスを狙って作ってみようと思いました。
マス狙いといえば雑誌ということで、取材でお世話になったことのある某誌の関係者に「雑誌風の同人誌を作りたいんですけど、どうやって作ってるんですか?」と相談したら、「もう雑誌を作っちゃったらいいんじゃないですか?」と言われて。そこから思わぬ方向に話が進んで、大掛かりになりました。
雄山: オールフルカラーはすごいですね。
五月: あまり詳しくは言えないのですが、実際の雑誌やムックを手掛けているチームにデザインをやってもらいました。最初はもう少し軽くやるつもりだったのですが、だんだん話が大きくなってきたので、もうこうなったらコストとかいいから、一生に1回しか作れないところまでいってやれという感じで。
ただ残念なことに、『東方マネー2013年夏号』は5000部刷ったのですが、2000部ほどしか売れませんでした。非常に人気のある作家さんたちに協力してもらって、それなりにコストもかけたのですが、思ったほど売れなかったので、そもそも同人誌という形で売ることの限界を今、感じているところです。コミケでマス向けというのがおかしいですからね。ちなみに損益分岐点は4500部くらいです(笑)。
――投資の世界は対人戦の要素もありますよね。本を書いて相手に塩を送るようなことをして大丈夫なんですか?
五月: もちろんこれを読んだからといって、すぐにもうかるようにはならない程度にしています。そうしないと、実力で勝っている専業投資家に嫌われてしまいますし。エンタメとすそ野を広げること、あとは誰も得しない粉飾などに引っかからないように防御力を高くしてもらうことを意識しています。ただ、色々と考えてもらう起点のようなものは仕込んであるので、そこから何かをつかんでもらえる可能性はあるかもしれません。
――五月さんは優れた投資家として知られているので、商業流通でも執筆依頼が来ていると思うんですね。なぜ同人流通にこだわるんですか。
五月: 実は冬コミで同人誌はやめようかとも悩んでいます。同人業界をまったく知らない上司にも見せたりしたのですが、「いいとは思うんだけど、結局コミケという場で売っている以上、限界があるよね」と鋭い指摘を受けることもあります。
本当にいろいろな人に広げたいというなら、Web上でタダでやるのが一番いいんです。それこそ動画でやれば20万人に届くわけですからね。ではなぜ同人誌を作っているかというと、結局、僕が本を作りたいという自己満足を優先しているだけで、これだけ作ったらもういいのではないかと。本来の目的を今一度見つめ直す必要があると思っています。
――株の前に遊んでいた『ラグナロクオンライン』は、同人誌などのつながりで大きくなっていったところもあるので、それを追体験してみたい気持ちもあったのでしょうか。
五月 それはありますね。『東方プロジェクト』の二次創作は盛んですが、『ラグナロクオンライン』の二次創作も盛んでしたからね。音楽にもかなりいいものがありましたし。
――動画や同人誌を作っていたのは、何かを積み上げたかったというのもあったりしませんでしたか。投資の世界って100が10000になったとしても、失敗して100に戻ったら、それまでの時間は何だったんだという世界じゃないですか。
五月: 自分の実績を積み上げるというのは多少あります。文無しになった時に自分の名前に付加価値があれば、それも1つのリスクヘッジになるので。人生何が起こるか分からないですからね。
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