ティー・リーフ・ネーションの記事は果敢で頼もしい:女神的リーダーシップ(2/5 ページ)
慕容(ムーロン)のリベラルな思想にもとづく心の叫びは、中国の開放と民主化に向けた数々の動きを後押しした。ただし、ティー・リーフ・ネーションの論調は反体制一色ではない。
「政府は言論の自由を認める道を選んだのです。いまや言論内容を統制することはできません」とワータイムは語る。ティー・リーフ・ネーションは、ネット言論のいわばフィルターのような役割を果たしている。雑音を除去して、その時々で地に足の着いた省察を促すのだ。
ワータイムがティー・リーフ・ネーションの着想を得たのは、友人たちと一緒にワシントンDCのナショナル・モールまで散歩する道すがらだというから、なかなか風流である。彼らハーバード大学出身の三人は、公園内にあるジェファーソン記念館のそばで「自分たちにとって大切なものは何か」を語らったという(トマス・ジェファーソンは言論の自由を擁護したことでよく知られている)。
「僕らは、中国と欧米の溝を埋めるために何かを創造したかったのです」
これは、最初は途上国支援のNGO、平和部隊のボランティア、次いで大手の国際法律事務所の弁護士として、中国に足かけ10年滞在していたワータイムにとって、自然な発想だった。共同発案者のジミーとレイチェル(仮名)にもしっくりきた。ジミーは中国北部の沿岸部で生まれ育ち、ハーバード大学在学中に仲間とともにアジアン・ロー・ソサエティを設立した。中国南部出身のレイチェルは家族とともにアメリカにわたり、ハーバードへ進んだのだが、幼年時代は漢詩を愛読したという。3人とも中国への慕情と好奇心を抱いていた。人生で意味ある何かをしたいという強い思いによっても結ばれていた。
3人はナショナル・モール周辺の散歩から生まれたプロジェクトを推進しながら、日々、中国社会の空気を探っている。微博(ウェイボー)に代表される各種の中国版ミニブログや他のソーシャルネットワークに目を通しているのだ。このように何百人ものおしゃべりを「立ち聞き」すると、かなり率直な意見を知ることができるという。ここから浮かび上がる中国人の姿は、多くの異邦人が想像するような偏狭で孤立したイメージとはかけ離れている。
「中国には『雪かきは自宅の前だけでいい』という諺があります」とワータイムは語る。しかし彼の見たところ、オンライン上ではみんな、身の回りにとどまらずもっと遥かに幅広い問題に関心を向ける。地方政府や自治体のスキャンダルには通常、辛辣なコメントが洪水のように押し寄せるが、当局による検閲はまず行われない。わたしたちが中国を訪問した少し前には、違法な資金集めのかどで訴追された女性大富豪の呉英(ウー・イン)を救おうとして、何千もの中国人がネット上で嘆願運動を繰り広げた。大富豪はえてして疑いや妬みの対象となるが、呉英は裁判所が有罪と判断して死刑を宣告すると、世間の同情を集めた。
「会ったこともない、しかもおそらくは有罪であろう人間のために、大勢が『不公正だ』と勇敢にツイートしていたのですから、感動しました。経済事件で死刑は行き過ぎだという思いがあったようですね。理由は明らかになっていませんが、最高裁判所は死刑判決を退けました。みんなが『自分たちの力で呉英を救える』といって、救済に力を貸そうとしたのですから、凄いことです」
ワータイムらがティー・リーフ・ネーション上で描き出す中国社会には、政府が認める範囲内で人生をより楽しく満足のいくものにするための批判、意見の相違、創造性が溢れている。差し当たっては、社会の周縁部を中心にささやかな成果が上がるだけだろうが、一部では、優れた構想力のある人々が原動力となり、より大きな創造性の発揮、直接行動、市民による問題解決が可能な、いまとは違った中国をつくる動きも生まれている。
関連記事
- 「キュレーションで効率的に情報収集」の落とし穴――池上彰×吉岡綾乃(前編)
9月2日にリニューアルしたBusiness Media 誠。記念企画として、スペシャルインタビューを掲載していきます。最初に登場していただくのは、ジャーナリストの池上彰さん。編集長の吉岡綾乃と、ビジネスパーソンはどのように情報収集すべきかについて話し合いました。 - LINE、NAVERまとめはなぜ強いのか?――LINE株式会社 森川亮社長8000字インタビュー
人気サービス「NAVERまとめ」や、世界で2億3000万ユーザーが利用する「LINE」を急成長させているLINE株式会社の森川社長。矢継ぎ早にアプリやサービスをリリースする開発力や、「計画を立てない」「事業計画を出さない」といった独特の経営方針について、じっくり聞いてきました。 - 最初は売れなかった? これまで語られなかった「じゃがりこ」の裏話
「じゃがりこ」といえば、カリカリ・サクサクした独特の食感が特徴だ。カルビーが1995年に発売して以来、ロングセラー商品となっているが、開発秘話はあまり知られていない。開発に携わった担当者が多くを語らなかったからだが、18年経った今、当時の裏話を打ち明けてくれた。 - オバマ大統領が、本当に"change"したもの――Change.org日本代表 ハリス鈴木絵美さん
世界最大の署名サイト、Change.org日本版の代表・ハリス鈴木絵美さんは元マッキンゼーのコンサルタント。政治に興味がなかったという彼女はなぜオバマ大統領の選挙スタッフになり、さらに市民活動を仕事にしたのか? 日本人から見ると驚きの、米国の選挙事情を聞いた。 - メガネのネット通販で業界全部をひっくり返してみせる――Oh My Glasses、清川忠康社長
送料無料、返品無料、購入前に5本のフレームを自宅で試着可能というサービスをひっさげ、オンライン通販専業でメガネ業界に新風を巻き起こしつつある「Oh My Glasses」。創業者の目線の先にあるものとは?
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.