「みんなの家」で展開される“女神的”外交:女神的リーダーシップ(4/4 ページ)
スウェーデンでは、公式ツイッターアカウントの運用をあえて国民に開放し、世界に向けて思ったことをつぶやけるようにしている。政府観光局のこうした取り組みは、国のブランド構築に向けた数年来の取り組みの一環なのだ。
コミュニケーション力が欠かせない時代
ラジャリンとベングソンは、自分たちが十分なコミュニケーションを取らなかったせいで、男の子は成長した後も語彙や表現力に乏しく、十分な言語能力が備わらなかったとまで考えるようになった。人付き合いや仕事をするうえでコミュニケーション力が欠かせない時代に、これでは問題があった。
「もちろん、言語能力はもともと女の子のほうが高い傾向があります。彼女たちは概して、小学校から大学まで、そしてその後の人生でも、優れた結果を出します」
感情を読み取ったり表現したりすることが重要な分野では特に、女性のほうが有利である。
2人は、大人は無意識のうちに男の子と女の子を別々の方向へ誘導する傾向があり、その都度、「こうしたほうがよい」とそれとなく伝えていることに気付いた。そして、そのようなさりげない合図を減らして、自分らしく振る舞ってもらうために、性別にかかわらずすべての園児に対して、意識的に同じような手助けやしつけをすることにした。人形、手押し車、トラック、工作道具などあらゆるおもちゃを全員に開放し、女児用とされるおもちゃを男児が使っても、男児用とされるおもちゃを女児が手にしても、叱ったりしない。男の子には「それでいいのよ」と言い、女の子には「これも使ってみたら」と背中を押す。
エガリア幼稚園の設立は最近だが、ラジャリンとベングソンは1998年から男女を区別しない教育を実践してきた。先生たちは、最初こそちょっとした努力をしなくてはならないが、すぐに、男の子にも女の子にもごく自然に同じように接するようになる。王女様が王子様を助けに来たり、お父さんが誕生ケーキを焼いたりしてもよいのだ。
こうした切り替えは当事者にとっては抵抗がないが、部外者の多く、特に年配者はなぜそんなことをするのかと首をひねる。「エガリア幼稚園は園児たちを男の子とも女の子ともつかなくして、おかしな言葉遣いによる混乱を招いている」という批判もある。ラジャリンはこの状況を、19世紀に世界各地で起きた奴隷解放になぞらえる。奴隷解放もまた、「必要ない」「道理に合わない」と考えられていたが、やがて当然のことと受け止められ、奴隷制は誰からも明白な誤りとされるようになった。
「ティーンエイジャーにはわたしたちのやっていることは当然のように見えるようです。彼らにしてみれば『男女を同じように扱うことがなぜ問題なのか』というわけです」とラジャリン。究極の目的は、何についても自由な選択をしてよい、あらゆる可能性が開けている、と考えられる大人を育てることである。性別にとらわれて選択肢を半分に狭めてしまわずに、思いのままの選択や表現ができる、そんな大人を。
ラジャリンとベングソンによる教育の大きな特徴は、男女を区別しないことよりもむしろ、徹底的に物事を掘り下げる点にあるのではないだろうか。エガリア幼稚園ではすべての取り組みを詳しく振り返って成果を吟味し、「これでよいか」と問い直すのである。ついそこまでしなくてもよいのではないかとも思ってしまうが、このやり方のプラス面はマイナス面を補って余りある。考えてもみて欲しい。分かち合い、協力、対話をとおした解決の方法を全員が身に付けたらどれほど状況が改善するだろうか。女性らしさと男らしさの調和を促す社会になったら創造性の発揮やイノベーションがどれほど活発化するだろうか。性別によって可能性を閉ざされることがなかったらいまよりどれだけ幸せになれるだろうか。
(つづく)
著者プロフィール:
John Gerzema(ジョン・ガーズマ)
消費者行動が経済成長、イノベーション、企業戦略に与える影響を分析する社会理論家。グローバル企業のコンサルタントとして、消費者の価値観やニーズの変化を膨大なデータ分析によって追跡調査している。前著『スペンド・シフト』は、ビジネス雑誌、ファストカンパニーの「ベストビジネス書2010」に選出され、北米で出版されたビジネス書を対象としたAxiomビジネスブックアワードで2012年の金賞を受賞。
コロンビア大学、MITスローンスクールなどで講師を務め、TEDでのスピーチは25万人に視聴されている。BAVコンサルティングのエグゼクティブ・チェアマン、世界50カ国、5万ブランドを対象とした世界最大の消費者調査、BrandAssetValuator(BAV)の責任者を務める。
Michael D'Antonio(マイケル・ダントニオ)
ピュリツァー賞受賞ジャーナリスト。ビジネス、サイエンス、スポーツと多岐にわたるジャンルで15冊を超える本を執筆。チョコレート王を描いたHershey(未訳)はビジネスウィークの年間ベスト書の1冊に選ばれた。ノンフィクション映画、Crown Hightsの脚本で、人間の尊厳や自由を訴える優れた作品に贈られるヒューマニタス賞を受賞。
関連記事
- 「キュレーションで効率的に情報収集」の落とし穴――池上彰×吉岡綾乃(前編)
9月2日にリニューアルしたBusiness Media 誠。記念企画として、スペシャルインタビューを掲載していきます。最初に登場していただくのは、ジャーナリストの池上彰さん。編集長の吉岡綾乃と、ビジネスパーソンはどのように情報収集すべきかについて話し合いました。 - LINE、NAVERまとめはなぜ強いのか?――LINE株式会社 森川亮社長8000字インタビュー
人気サービス「NAVERまとめ」や、世界で2億3000万ユーザーが利用する「LINE」を急成長させているLINE株式会社の森川社長。矢継ぎ早にアプリやサービスをリリースする開発力や、「計画を立てない」「事業計画を出さない」といった独特の経営方針について、じっくり聞いてきました。 - 最初は売れなかった? これまで語られなかった「じゃがりこ」の裏話
「じゃがりこ」といえば、カリカリ・サクサクした独特の食感が特徴だ。カルビーが1995年に発売して以来、ロングセラー商品となっているが、開発秘話はあまり知られていない。開発に携わった担当者が多くを語らなかったからだが、18年経った今、当時の裏話を打ち明けてくれた。 - オバマ大統領が、本当に"change"したもの――Change.org日本代表 ハリス鈴木絵美さん
世界最大の署名サイト、Change.org日本版の代表・ハリス鈴木絵美さんは元マッキンゼーのコンサルタント。政治に興味がなかったという彼女はなぜオバマ大統領の選挙スタッフになり、さらに市民活動を仕事にしたのか? 日本人から見ると驚きの、米国の選挙事情を聞いた。 - メガネのネット通販で業界全部をひっくり返してみせる――Oh My Glasses、清川忠康社長
送料無料、返品無料、購入前に5本のフレームを自宅で試着可能というサービスをひっさげ、オンライン通販専業でメガネ業界に新風を巻き起こしつつある「Oh My Glasses」。創業者の目線の先にあるものとは?
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.