米国の「メイド」問題で明らかになる外交官の不都合な真実:伊吹太歩の時事日想(1/3 ページ)
今、米国とインドの間で外交関係が急速に悪化している。きっかけは米当局がメイドを不当に扱ったインド人女性外交官を逮捕したこと。
著者プロフィール:伊吹太歩
出版社勤務後、世界のカルチャーから政治、エンタメまで幅広く取材、夕刊紙を中心に週刊誌「週刊現代」「週刊ポスト」「アサヒ芸能」などで活躍するライター。翻訳・編集にも携わる。世界を旅して現地人との親睦を深めた経験から、世界的なニュースで生の声を直接拾いながら読者に伝えることを信条としている。
在米インド総領事館の女性外交官(39)が逮捕された。当局がこの女性に屈辱的な「体腔捜査」を行ったことをめぐって、米国とインドの関係が急激に悪化している。
日本では安倍晋三首相が靖国神社を訪問して米国務省から「disappointed(残念に思う)」と言われたことでその真意をめぐり議論になっていたが、このインド人女性外交官の事件については、ジョン・ケリー米国務長官が直接言及してさらに強い「regret(遺憾に思う)」とコメントした。
さらには、アーネスト・モニツ米エネルギー省長官がインド訪問をキャンセル。シェールガスの供給や、2005年から強化されている米印間のエネルギー協力が協議される予定で、2013年9月にホワイトハウスで行われたインドのマンモハン・シン首相とバラク・オバマ大統領の会談をまとめる意味でも大事な訪問になるはずだった。また南・中央アジア担当のニシャ・デサイ・ビスワル米国務省次官補も、就任後初となるインド訪問を延期することに決めた。
とにかく両国関係の状況はひどく悪化しており、すぐに改善することはなさそうだ。米国にとってインドは地政学的にも重要な国であり、こうした形でやり合うのはオバマ政権にとっては頭が痛いことだろう。
月給45万円のはずが時給300円で働かされたメイド
そもそもインド人女性外交官の事件とはいったいどんなものだったのか。ことの発端は、2013年12月19日にニューヨークにあるインド総領事館の女性外交官、デブヤニ・コブラガデ副総領事が、子供2人を学校に送り届けた際に逮捕されたこと。容疑はメイドに対する賃金支払い額で、ビザ申請時に虚偽の申告をした不正だった。
報じられている内容が事実ならば、この副総領事の犯罪は悪質だ。彼女はニューヨークにインド国籍のメイドを呼ぶためのビザの申請書に「給料は月4500ドル」と記入していた。だが副総領事は、申請を出した後にメイドに別の契約書への署名を命じていた。そこに記された給料額は月573ドル。つまり時給は3ドル31セントだった。
これは米政府が定める最低賃金、7ドル25セントからも大幅に低い。しかも支払い額はまちまちで、ときには時給1ドル22セントで働かされることもあったという。外交官は免責特権など特別扱いを受けているため、何をやっても許されるという感覚に陥っていたのかもしれない。逮捕された副総領事は、有罪になれば最高10年の禁固刑が課されるおそれがあった。
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