映像配信サービスで救われた命:女神的リーダーシップ(6/6 ページ)
スウェーデンでは毎年、ノーベル賞の発表を機に誰もが国際情勢に思いを馳せる。自由や和平への関心はとりわけ高い。ウェブ上には数々の試合やパーティーのライブ映像がアップされているが、中東で若者たちが独裁体制に立ち向かう姿も伝えられている。
社交的で友人付き合いに熱心な科学者たち
リサーチゲート上では直近の1年間に1万2000超の質問、160万超のメッセージ交換、80万超の論文共有が行われた。往々にして専門領域の垣根を越えたやりとりによって、物理学者と生物学者、化学者と天文学者のあいだの壁が打ち破られた。マディシュは、このような多数の専門領域の融合を、19世紀以前の科学研究への回帰と見なしている。当時の研究者は博識のゼネラリストであり、幅広いテーマや関心分野において成果を上げていた。
登録する科学者の多くは、1人で研究室にこもって仕事をしながらリサーチゲート上で文献や協働者を探したり、研究手法を紹介し合ったりしている。助手の採用にこのサイトを使う人もいる。「目を見張るような成果は生まれましたか」と聞くと、マディシュは華々しいブレークスルーを狙っているのではないと語った。「科学研究とは、主に小さな課題の解決をいくつも積み重ねていくものです。小さな成果の1つ1つが大きな成果に貢献します」
マディシュが重視するのは効率である。ただし、科学者に対する世間のステレオタイプな見方を打ち破ることにも喜びを見出している。科学者は意外にコミュニケーションが上手く、社交的で友人付き合いに熱心だったのだ。競争心が強い半面、協力的でもある。しかも、批判の類はマディシュが心配していたよりも遥かに少ないという。
「『お前、バカだな』などといった否定的な書き込みもあるだろう、と見ていました。ところが実際には、快く助け舟を出してくれます。『これを試してみましたか』『あれを試してみましたか』と。科学者はたいてい、仲間を助けようという意欲を持った親切な人々です」
親切心と大きな野心が重要な解を粘り強く探求する原動力になっている。そのさまはまるでマディシュ自身のようだ。リサーチゲートの重要性が高まり、いつの日か仲間の誰かがノーベル賞に輝くことを、彼は期待している。
(つづく)
著者プロフィール:
John Gerzema(ジョン・ガーズマ)
消費者行動が経済成長、イノベーション、企業戦略に与える影響を分析する社会理論家。グローバル企業のコンサルタントとして、消費者の価値観やニーズの変化を膨大なデータ分析によって追跡調査している。前著『スペンド・シフト』は、ビジネス雑誌、ファストカンパニーの「ベストビジネス書2010」に選出され、北米で出版されたビジネス書を対象としたAxiomビジネスブックアワードで2012年の金賞を受賞。
コロンビア大学、MITスローンスクールなどで講師を務め、TEDでのスピーチは25万人に視聴されている。BAVコンサルティングのエグゼクティブ・チェアマン、世界50カ国、5万ブランドを対象とした世界最大の消費者調査、BrandAssetValuator(BAV)の責任者を務める。
Michael D'Antonio(マイケル・ダントニオ)
ピュリツァー賞受賞ジャーナリスト。ビジネス、サイエンス、スポーツと多岐にわたるジャンルで15冊を超える本を執筆。チョコレート王を描いたHershey(未訳)はビジネスウィークの年間ベスト書の1冊に選ばれた。ノンフィクション映画、Crown Hightsの脚本で、人間の尊厳や自由を訴える優れた作品に贈られるヒューマニタス賞を受賞。
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