横浜発〜秩父行き「メトロレッドアロー号」は実現するか:杉山淳一の時事日想(1/4 ページ)
鉄道ビジネスにおいて、いまもっともホットな話題が「西武HDの再上場」。4月23日と予想される西武HDの株式公開は、あしかけ10年の西武鉄道再建の総仕上げとなる。その景気付けだろうか、西武鉄道の看板列車「レッドアロー号」の横浜方面乗り入れ案が浮上した。
2014年4月23日付けで再上場する西武ホールディングス(以下、西武HD)が話題だ。
2004年、西武鉄道は証券取引法違反で上場廃止処分となり、外資系ファンドから約1000億円の出資を得て事業を再編、持ち株会社(ホールディングス)制に移行した。再上場は外資系ファンドが投資を回収するための約束であった。
なお、同社は今回の株式上場では新株を発行しないので、さほど巨額の資金を得るわけではない。しかし新たな資金を得る道を開いたことは期待に値する。金融市場から資金を調達できるためだ。ただ、そのためには西武HD傘下の企業が投資に値するビジネスを企画し、実行していかなくてはいけない。
その新ビジネスの1つというべきアイデアが鉄道ファンの期待を集めている。傘下西武鉄道の看板列車「特急レッドアロー号」を、地下鉄を経由して横浜まで乗り入れようという構想だ。
この構想の歴史は古く、小田急電鉄が東京メトロへ特急ロマンスカーを乗り入れた2008年頃からあったようだ。小田急ができるなら西武もできるはず──というわけだ。実際、2014年3月17日付け朝日新聞の報道によると、西武鉄道の若林久社長はとても意欲的であることが伺える(参考 朝日新聞デジタル:埼玉 西武鉄道、レッドアロー号横浜直通を検討)。
地下鉄の乗り入れには、“新型”のレッドアロー号が必要
西武鉄道の特急レッドアロー号は、そのままでは地下鉄に乗り入れできない。これは小田急が既存のロマンスカーをそのまま東京メトロへ直通できなかった理由と同じ。地下鉄は閉鎖的な空間を走行するため安全基準が厳しい。特に車両に関しては「各所に燃えにくい素材を用いる」「運転台側(前方)に非常口を設置する」などの条件がある。現在の特急レッドアロー号は地上走行を前提としているため、これらの条件はすべて満たしていない。
これらの条件、2002年までは義務であった。しかし規制緩和政策によって、2014年現在は法的拘束力がなくなった。もちろん鉄道各社は厳しい基準を順守して車両を製造している。ただ非常口に関しては、義務であった時代も車体側面とトンネルの壁との間に充分な空間が確保できていれば免除されていた。しかし東京メトロ副都心線をはじめ、多くの地下鉄はコスト効率化のため、トンネル断面を最小限にしている。このため、やはり前面の扉は必要だという考えが主流である。小田急電鉄はこの基準に準拠するために、わざわざ地下鉄乗り入れ対応の前面扉のあるロマンスカーを作ったのだ。
地下鉄乗り入れのため、西武鉄道も新しいレッドアロー号を開発する必要がある。現在の車両に加えて、新しい特急車両を作る資金があるか、という話になる。もっともこれは、可能かどうかというより遠からず新型車両は作らざるを得ない。現在のレッドアロー号の車両寿命があるからだ。「ニューレッドアロー」と呼ばれている10000系は1993年より製造。すでに20年が経過しており、鉄道車両の減価償却期間である13年はすでに超えている。
もちろん古い車両を使い続けたり、中古車を運用する鉄道もあるが、大手私鉄の幹線で使う電車としてはだいたい25年前後で引退しているようだ。ちなみに新幹線は15年程度と言われている。実は「ニューレッドアロー」の場合、先代の5000系の機器類も流用されている。1993年製といっても、足回りは1970年代前半の製造であったりする。こうなるともうとっくに引退してもいい時期であり、もちろん次期主力特急電車の計画に着手してもいい時期でもある。西武鉄道は新型通勤電車を“スマイルトレイン”と称しているから(記事参照)、さしずめ「スマイルエクスプレス」とでもいうべき電車が必要だ。それは地下鉄乗り入れを視野に入れた設計でもおかしくない。
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