SBIホールディングスの北尾社長に聞く、「働く」とは何か?:働くこと、生きること(前編)(3/3 ページ)
インターネット総合金融グループであるSBIホールディングスの北尾吉孝社長へのインタビュー。大学卒業後、野村證券に就職、その後、ソフトバンクで働くことになった“きっかけ”などを語ってもらった。
「働く」とは、仕事を通じていかに自分が成長していくかということ
「私は野村證券時代、担当部長としてソフトバンクに訪問することが何度もあったのですが、ある時帰り際に孫正義さんが『ソフトバンクに来てくれませんか? 来てくれれば、ソフトバンクは飛躍できるんです』と言ってくださった。僕は『10日だけ時間をください』と答え、その後ソフトバンク、孫正義、そしてマルチメディアに関する資料を読み込みました。その結果、インターネット業界の将来性を確信し、また孫さんは類いまれなる人物だと思い、彼を支えようと決意したのです」
入社後すぐ、店頭公開直後の企業としては異例ともいえる、約4800億円もの資金調達を実現。それがヤフーやアリババの買収につながる。しかしそんな状況下、気づいたことがあったという。
「インターネットと金融の親和性の高さです。そこで、インターネットで金融業をやろうと、ソフトバンクの子会社をつくり、インターネット証券会社を始めました。その後、証券だけでなく、銀行や保険にも進出しようと考えました。その一方で当時、ソフトバンクはADSL事業で多額の赤字を計上していました。その時の状況は今とは雲泥の差で、財政的に危険な状況でした。
そのような背景があって、ソフトバンクの子会社では金融庁から銀行業や保険業に必要な免許が下りないし、ソフトバンクを財政危機から救うためにもソフトバンク持ち分の全株式を売却すべきだと考えました。そしてそのことを孫さんに正直に話しました。その結果、ソフトバンクから独立することとなったのです。
そして私は銀行や保険にも進出し、金融業を発展させることができた一方、ソフトバンクは保有していた当社(SBIホールディングス)の株式等を売却し2000億円を超える資金を調達することができました。お世話になった孫さん、ソフトバンクをなんとかしなければという思いと、自分自身金融業で企業グループを作り上げたいという気持ち、このどちらも満たすことができました。これはすべて天の配剤だと思います。思えば孫さんと出会ったのも天の配剤というべきタイミングでした。しかし、邂逅(かいこう)あるところに別離あり。出会い、どこかから袂(たもと)を別ち、それぞれの道を歩んでゆく。そういうものだと思います」
かくして多くの実積を積み上げてきた北尾さんにとって、「働く」とはどういうことだろう?
「『働く』とは、仕事を通じていかに自分を成長させていくかということ。それこそが仕事の最大の成果です。そして、仕事を通じてさまざまなご縁ができる。孫さんやソフトバンクとのご縁も、野村證券での事業法人部長時代、ひとりのお客さまとしての孫さんと会ったことから生まれたわけです。そういうご縁のなかで、道が開けてくる。ご縁をキチッとつかめる人とそうでない人とがいるのですが、つかめれば、おのずと次の展開は見えてくる。そういうものだと私は思います」
(つづく)
印南敦史(いんなみ・あつし)
1962年東京生まれ。ライター、編集者、コピーライター。人間性を引き出すことに主眼を置いたインタビューを得意分野とし、週刊文春、日刊現代、STORYなどさまざまな媒体において、これまでに500件におよぶインタビュー実積を持つ。また書評家でもあり、「ライフハッカー」への寄稿は高い評価を得ている。
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