後輩が上司になった――それは「退職マネジメント」かもしれない:サカタカツミ「新しい会社のオキテ」(2/2 ページ)
マネージャーになったはいいが、部下を管理しチームを運営する能力がない人。重要なポジションについたが見込み違いだった人……このような管理職を企業はどのように処遇するのでしょうか。その答えはシンプルかつ、残酷なものです。
自らの意思で、組織から排出されるように仕向ける方法とは?
以前のように年功序列で自分のポジションが決まっていく、という時代ではありませんから、多くの役職者は自分の能力に自信を持っています。しかるべき成果を上げ、能力を保持しているから、今の仕事を与えられていると思っているはずです。もちろん、仕事をする上で、もっとも重要な気持ちであるといってもいいでしょう。企業も当然、その職務をまっとうする能力があると見込んで、そのポジションを与えたわけです。
しかし冒頭にも書きましたが、結果が伴わなかった、もしくは組織にとっては見込み違いだったというケースは、いくらでもあります。しかしここからが難しいところ。成果が出なかったから即降格、もしくは左遷、というのも、なかなかできない。今のポジションに適性がないなら、ひとつ下のポジションに就ければいいと考えがちですが、そのポジションには後輩たちが既に座っています。彼らの育成のチャンスをなくしてしまうわけにはいかない。
かといって、別の部署に異動させたところで、そのポジションではパフォーマンスが発揮できない、もしくは能力が不足しているなら、どこに行っても同じことの繰り返しです。年功序列ではなく、実力主義で出世したという自負もありますから、一朝一夕の指導などでは、なかなか変わらない。あっという間に手詰まりになってしまう、ということです。
だからといって退職してくれ、というのも無理な話。できれば、自分で気がついて、その席を自分の意思で離れてくれればいいなと考える人が出てきても仕方ないといえば、身も蓋もないのですが。そのために、組織が打つ手はシンプルです。
後輩を上司にする。たったこれだけです。
関係性が深く、かなり年下の上司は、残酷な存在
「そんなことは、イマドキまったく珍しくないではないか。歳の若い経営者などたくさんいるし、年齢が下だから上だからなど、気にしていては仕事などやっていられない」
そういう声が聞こえてきそうです。もちろん、その通りだと思います。しかし、こういうケースだとどうでしょう。自分の上司に、自分がそれなりのポジションに就いていたときに、新人として配属されてきた後輩がなったと。なにもできない頃からずっと付き合ってきて、仕事のやり方もすべて自分が教えてきたという後輩が、自分のマネジメントをするのです。
後輩ですから、名前を呼ぶときにもぞんざいな感じだったでしょう。酒の席なら、自らの経験を開陳しながら、“上から目線”で教えるという感じになっていたかもしれません。こう書くとピンとくる人も多いと思います。そう、退職マネジメントの手法のひとつ「関係性のごく近い後輩を上司につける」とは、極めて残酷な手口の一つなのです。
自分の仕事の報告も「上司としての後輩」にしなければなりません。当たり前のことなのですが、必要な費用などの決裁も、稟議書を作り、決裁を仰ぐ必要がある。手続きが複雑、かつ、正しく行われなければ先に進まない組織であればあるほど、歳が離れていて、かつ、身近な年下の上司との接触のたびに、心がゆっくりと折れていくことは、容易に想像ができます。
当然、その状態を良しとしない先輩部下は、黙っているわけはない。ある種の寝技とでもいうのでしょうか。社外コミュニケーションなどを仕掛けて、上司部下という関係ではなく、先輩後輩という関係性で、優位なコミュニケーションが取れないかを画策します。後輩である上司も、最初は話を聞く、もしくは聞くふりをしますが、いずれ決定的な溝ができるようになります。
従業員がなぜ辞めるのか。組織はそれを知り尽くしている
「地位が人を作る」……使い古された言葉です。
しかし、今後のビジネス社会の中では、これまで以上に重い言葉になると思います。一つポジションが上がると、仕事において経験できることが、質量ともに段違いに変わります。その「差」が、ビジネス社会の流れが速くなればなるほど、驚くほどの差になってしまう。「先輩は経験が豊富だから、耳を傾けるべき話もある」という状態が、長く続かなくなってしまっている。あっという間に置き去りにされる。
ということは、先輩後輩という関係性で優位さを発揮しようとしていた年上の部下も、その方法が通用しなくなり、両者の間に決定的な溝ができるというわけです。日々の会話も少なくなり、言葉遣いもあいまいになる(敬語は使いたくないが、組織的な観点から、いままで通りの話しかたもできなくなる)そうなると、次の場所を自分で探す、という行動に移るしかない。さりげなく心を折り、自ら次の道を歩き出すという、企業の目論みは達成されるのです。
ここまで読んで「そんな残酷なことを組織は考えない」とか「そこまで手の込んだことをやっているケースはレアではないのか」といった感想を持つ人も少なくないと思います。確かに、自覚的に「あの人の心を、さりげなく折って、退職に追い込むぞ」と取り組んでいる企業はあまりないでしょう。
しかし、企業はどうすれば人が退職するのかを知り尽くしています。裏を返せば、以前もその人材配置で人が辞めたという配置を繰り返すということは、何を意味しているのか……もう、分かりますよね。
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