法人税減税の狙いは何か?――日本企業の「六重苦」を考える:世の中の動きの個人資産への影響を考えてみる(1/2 ページ)
今、法人税減税について議論されています。その効果と、政府の狙いを考えてみましょう。
今、法人税減税について議論されていますが、効果はあるのでしょうか? そして政府の狙いは何でしょうか?
2014年に法人税減税はあるか?
消費増税とともに法人税を減税しようという議論が活発です。
<法人減税で綱引き 14年度税制改正>
首相は来年4月からの8%への消費増税を決断すると同時に、企業の成長の後押しが必要と判断。まず復興特別法人税を1年前倒しで今年度末に廃止すると年末に正式決定する。さらに15年度から諸外国に比べて高い法人実効税率の引き下げに踏み切る意向だ。
(2013年10月24日付 日本経済新聞)
日本の法人税の実効税率は約36%で、独(29.6%)、英国(24%)、中国(25%)、韓国(24%)などと比べて高くなっています。海外企業の誘致を積極的に推進しているシンガポールなどは17%です。
法人税の負担が軽くなれば企業には手元資金が増えます。製品の価格競争力も強化されるでしょう。そうして企業を元気にして経済を活性化しようというのが、法人税減税の狙いです。
法人税減税で経済は活性化するのか?
しかし、「はたして法人税を下げれば経済は活性化するのか?」と言うと、かなり異論があります。よくあるのは「日本の企業はそもそも今でも法人税を払っていない」というものです。
今、日本にある法人数はおよそ250万社。そのうちの約73%、およそ180万社が赤字法人です。つまり今法人税を減税しても3割弱の黒字法人にしか効果はありません。特に中小・零細企業の8割は赤字ですが、それは分からないでもありません。もともと中小・零細企業は経営資源が乏しく、収益力が弱いところが多いのは事実です。儲かっているところであっても、少額の利益なら節税のためにちょっと経費を使って赤字にしているところは少なくないでしょう。所得の多い個人のほうが、節税のために法人を作ることもよく行われています。意図的に赤字にしているわけですね。
だから、法人税減税の恩恵を受けるのは一部の大企業だけと言われています。しかし、実際には大企業もそれほど払っていないのが現状です。
税金には「租税特別措置法」(通称:特措法)というのがあり、一定の要件を満たせば税金を軽減できるようになっています。「〇〇をしたら法人税を●%優遇する」とか「△△をしている企業の法人税は●%」という感じの軽減措置です。
この特措法は、実はものすごくいっぱいあります。エネルギー関連とか設備投資資産の償却関連が特に多く、大企業はかなりその恩恵を受けています。ですから、実はすでに法人税の実質的な負担率は欧米諸国並みに低い、という大企業は少なくないのです。
ですから、現実には法人税の減税をしたからと言って企業の手元現金が増えて経済が劇的に元気になる! なんてことはないわけです。
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