なぜマスコミは「憲法9条」がらみになると話を盛ってしまうのか:窪田順生の時事日想(3/3 ページ)
大手マスコミによる「憲法9条」の伝え方をみると、「なにそれ!?」と違和感を覚えることがある。例えば、『サンデーモーニング』(TBS)や『朝日新聞』の報道をみると……。
マスコミは不都合な話を飛ばす
日本のマスコミはこういう大事な部分を隠して、「あれ、言ってませんでしたっけ?」みたいな顔をしてニュースを流すことが多い。その最たるものが「憲法9条」だ。
先ほどのリベラル系番組ではよく憲法9条を「世界でも唯一の平和憲法」とか言うが、これは正確ではない。駒沢大学名誉教授の西修氏が世界の憲法188を調べたところ、平和項目がある憲法は158もあった。さらに言えば、「国際紛争を解決する手段としての戦争放棄」という条文はイタリア(1947年)、アゼルバイジャン(1995年)にもあるという。
ちなみに、イタリアもベルルスコーニ首相の時にイラク戦争に参加しているし、アゼルバイジャンの軍隊もPKOでコソボ、アフガニスタン、イラクに派兵をしているだけではなく、NATO(北大西洋条約機構)も加盟する「平和のためのパートナーシップ」に加わった。「蟻の一穴」理論でいけば、両国とも権力者が平和憲法を無力化しているわけだから、軍国主義になっていなければいけないが、そういう話は聞こえてこない。
このことからも分かるようにマスコミ人の間では、「憲法9条」がらみでは多少話を盛ってもいい、みたいな免罪符がある。
その象徴が『朝日新聞』が4月に出した「憲法9条にノーベル賞を 主婦が思いつき、委員会へ推薦(参照リンク)」という記事だ。タイトルそのままの内容だと、9条に対してなんの思い入れもない奥様がある日、突然閃(ひらめ)いたみたいな印象を受けるかもしれないが、事実は違う。
この「主婦」なる女性は、キリスト教系の団体でさまざまな平和活動をしているのだ。だから、読者を誤解させないためには正しくはこう書かなくてはいけない。
「憲法9条にノーベル賞を 女性平和活動家が思いつき、委員会へ推薦」
後ろめたいことがないなら正々堂々とすればいい。それがあるとだいぶニュアンスが変わるでしょ、というところを隠すので、ネット右翼のみなさんから「捏造(ねつぞう)」とか叩かれちゃうのだ。
件の『サンデーモーニング』のVTRは、視聴者へこんな問いかけをして締められていた。
蟻の一穴を押しとどめるハンス少年はあらわれないのでしょうか――?
焦っているのはよく分かる。でも、蟻の一穴を押しとどめたいがため、話を盛ってしまうオオカミ少年がいなくならない限り、まともな護憲派は現われないんじゃないスかね。
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