“匿名”データからでも、個人が特定されてしまう理由:「日常」の裏に潜むビッグデータ(3)(1/3 ページ)
ビジネスに生かせるビッグデータとして、個人の行動や状態に関する情報、いわゆる「パーソナルデータ」に注目が集まっている。適切に使えば大きなメリットを生む半面、複数のデータを組み合わせれば、名前を伏せていても、個人が特定されるリスクもあるという。
とある夏休み。高校1年生の佐山淳一は来週からの旅行の準備をしている。2人の友達と5泊6日で京都に出かけるのだが、特にお金が足りるかどうか計算をしていた。
宿泊先は親戚の家なのでタダ同然。旅行中の交通費はスマホで精算。交通費までは親が出してくれるので、決められたチャージ額を超えなければどこでも移動できる……が、現地で遊んだり買い食いするお金はやや心もとない。
「そうだ、今までアンケートやゲームで貯めたポイントを使おうか」
高校生のアンケート情報は価値が高いのか、中学のときよりもポイントが高い。友達は「悪用されるのが怖いから匿名で答えるものしか参加しない」というが、自分は普通のサラリーマン家庭だし、漏れて困るような情報もないので、還元率が高い実名のアンケートも利用している。
さらに、高校で新しくできた友達から「情報銀行」というものも教えてもらった。詳しいことはよく分からないが、パーソナルデータを預けることでお金が入ってくる仕組みらしい。国の法律で管理されているため、預けた情報の利用先も社会貢献事業などに限られていて、利用されるたびに通知してくれる。
この間ダウンロードしたアプリは、GPSを使った位置情報や電子マネーの履歴を数日間企業に提供し続けることで、自動でポイントを稼げるらしい。旅行先のデータならさらにボーナスが付くから、ポイント交換サイトで電子マネーに換金すれば、旅行中にランチ1回分ぐらいは稼げるだろう……。
短期集中連載:「日常」の裏に潜むビッグデータ
- 第1回:データが価値を持つ時代に、“タダ”のサービスなど存在しない
- 第2回:生活は便利に、でもプライバシーは“丸裸”? ビッグデータ活用の光と影
- 第3回:“匿名”のデータからでも、個人を特定されてしまう理由(本記事)
パーソナルデータが“通貨”になる時代
ビッグデータの活用が進んだ少し先の未来、このように、実名や行動履歴を活用したアンケートでお小遣いを稼ぐ人が増えていくかもしれない。
無料サービスやプレゼント、金券などと引き換えに、アンケートなどから情報を集める方法は現在でも存在するが、今後こうしたアンケートは、利用者が“使われていると明確に分かる”方法ではなく、スマホの位置情報やアプリの利用履歴など、日常生活の中から自動でデータを収集される方向に変わっていくだろう。
スマートフォンが普及し、時計型やメガネ型のウェアラブルデバイス(Google Glassなど)に注目が集まる現在、収集できるデータは莫大になり、質も高まりつつある。こうしたデータを活用し、ビジネスにつなげようとする動きが世界中で活発になっているからだ。
冒頭のストーリーでは、個人の行動や状態に関する情報(パーソナルデータ)を預ける「情報銀行」という組織が登場したが、これもそう遠くない将来に設立されるかもしれない。今後、パーソナルデータは明確な価値を持つ通貨のようなものになると考えられており、パーソナルデータを預けて管理、運用してもらう“銀行”のアイデアはすでに出されている。
情報銀行の発案者の1人である東京大学の柴崎亮介教授は、2013年末に「情報銀行コンソーシアム」を立ち上げた。この団体は、パーソナルデータを安全に収集、管理をする技術や収集時に利用者から許諾を得る仕組み、情報がどう利用されたか確認する仕組みを作ることを目的としている。
実名や連絡先といった情報が大きな価値を持つことは、読者の皆さんも容易に想像できるだろう。この7月にはベネッセコーポレーションから2000万人分以上の情報が流出し、名簿業者に販売されて大きな問題になった(関連記事)。この情報は数多くの会社に出回って販促などに使われたという。
では、スマートフォンなどから収集される行動履歴のような、実名などを伏せた匿名のデータなら安全で問題はないのか……というと、そうとは言い切れない。
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