裁判官は優秀なはずなのに、なぜ“トンデモ判決”が出てくるのか:ああ、絶望(後編)(2/5 ページ)
認知症のお年寄りが電車にはねられた――。この事故に対して、第一審判決は、奥さんだけでなく、別居をしている長男にまで請求を認めた。こんな“トンデモ判決”が、なぜ出てくるのか。最高裁などを歴任した瀬木比呂志氏に話を聞いたところ……。
瀬木: 2000年前後までは、本を書いたり、研究をしている裁判官に対しても「いいんじゃないか」という雰囲気がありました。しかし、今は違う。極端に言えば、研究をしている裁判官はそれだけで「けしからん」となってしまいました。
烏賀陽: 上意に逆らわなくても、自分の意見や興味対象を研究するだけで「けしからん」となるのですか?
瀬木: 周囲から「この人は出世するだろうなあ。高裁長官にはなれるはず」と思われていても、ただ研究をしているというだけで、高裁の裁判長で“塩漬け”にされる。
最高裁の判事は15人。内訳をみると、裁判官出身が6人、弁護士出身4人、検察官出身2人、行政官出身2人、法学者出身1人。研究をしているというだけで、裁判官出身6人の枠に入ることはできなくなります。
烏賀陽: 「国策に逆らうような判決を書いた」といった理由ならまだ理解できます。でもそうではなくて「本を書いているから」「研究をしているから」というのは、ちっとも反抗的な行動ではありませんよね。自分が興味を持っていることを研究しているだけで、人事に影響するなんて信じられない。
瀬木: 以前は、能力のある裁判官はそれなりの処遇を受けていました。最高裁長官も、上から下まで“イエスマン”ばかりを集めると組織が腐敗することを分かっていたんですよ。ところが2000年前後から、情実人事がはびこるようになりました。「組織を強くしよう」「組織を守ろう」という考えすらなく、自分たちの利益のことばかり考えるようになりました。
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