誰がテロ行為を起こすのか 予測できない理由は2つ:烏賀陽弘道の時事日想(4/4 ページ)
「インターネットが普及したことでテロ行為の性質が変わった」と筆者の烏賀陽氏は指摘する。どこで誰がテロリストになり、テロ行為を起こすのか。予測ができなくなった理由として2つを挙げている。それは……。
ネットが開けた「暗い未来図」
余談だが、この「社会から疎外され敗北感を味わった若者が、社会への怨嗟を不特定多数への攻撃という形で爆発させる」という形態は、2008年に東京・秋葉原の歩行者天国にトラックで突っ込み、無差別に通行人をはねたりナイフで刺したりして7人を殺し10人にけがを負わせた「秋葉原無差別殺傷事件」の犯人(当時25歳)と共通している。
どの国・どの社会にもこうした「社会から疎外され敗北感を味わった若者」はいる。もちろん、その先の社会への怨嗟を暴力で表現するかどうかは別だ。大半は暴力という形は取らない。が、そうした若者の前に、ネットという世界につながる「どこでもドア」が開かれたとき、たまたま運悪く、その攻撃衝動を正当化する思想や哲学が現れることがある。イスラム過激派思想や極右思想がその暴力に「聖戦」「民族防衛」といった「大義」を与える。さらに爆弾の製造方法までが書かれている。ネットというマスメディアでは、そうした「不運な出会い」を防ぐことはできない。
断っておくが、私は「だからネットは規制するべきなのだ」という「ネット=悪説」には与しない。テクノロジーは無色で中立なのだ。「世界の誰でも情報を発信でき、世界のどこからでも情報を受容できる」というグローバルメディアゆえの明暗両面があるだけだ。
ある日、社会に反感を持つ若者が、自分の疎外感や敗北感を埋めるテロの思想や方法に、ネットで出会う。準備し、実行する。誰にも会わない。ずっと家の中やスマホでネットを使っている。1970〜80年代のテロのように、危険を犯して武器を調達し、遠く外国まで旅する必要もない。飛行機をハイジャックしたり、オリンピック選手村を襲撃する必要もない。勝手知ったる地元で爆弾を爆発させる。そんなテロは、いつ、どこで、誰が起こすか、まったく予測がつかない。世界のどこで起きてもおかしくない。テロリストをマークして事前に尾行するなど不可能だ。これも、ネットが開けた「暗い未来図」である。
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