化粧品メーカーには真似できないアイスタイル独自のデータ戦略:ポーター賞企業に学ぶ、ライバルに差をつける競争戦略(1/5 ページ)
国内最大のコスメ情報サイト「@cosme」を運営するアイスタイルが、ユーザーである消費者のみならず、顧客企業である化粧品メーカーからも支持を集める理由――。それは創業以来築き上げてきた独自のデータベースにあるのだ。
化粧品に関心のある女性は多いが、世の中に膨大な化粧品がある中で自分にとってピッタリの一品を探し出すのが大変だという声もよく耳にする。そうした女性たちを助けようと、消費者同士の情報交換の場として1999年暮れにオープンしたコスメ情報ポータルサイトが「@cosme(アットコスメ)」だ。
現在、@cosmeには国内外2万8000ブランド、商品数25万点が登録されており、月間ページビューは2.8億、月間ユニークユーザーは約1000万人に上る。特に購買意欲の高い20〜30代の女性から根強い支持を得ている。
同サービスを運営するアイスタイルは2012年3月に東証マザーズに上場。直近の2015年6月期 第3四半期の決算は、売上高が68億5800万円(前年同期比33.5%増)、営業利益が5億3600万円(同137%増)、当期純利益が2億5100万円(同438.8%)と大幅な増収増益だった。
同社は、ユニークな競争戦略によって高い収益性を達成・維持している企業を表彰する「ポーター賞」(一橋大学大学院 国際企業戦略研究科:一橋ICS主催)を2014年度に受賞した。同社の事業立ち上げの背景や、ビジネス戦略の根幹などについて、ポーター賞の運営委員会メンバーである一橋ICSの大薗恵美教授が、アイスタイルの吉松徹郎社長兼CEOに聞いた(以下、敬称略)。
最大の武器はデータベース
大薗: 現在、コスメ商品に関する情報サイトとして「@cosme」は最大手で、ユーザーは320万人を突破しました(2015年3月時点)。競合はいるのでしょうか。
吉松: 「Yahoo! BEAUTY」などのインターネットサービスや、既存の美容関連雑誌など、サービスとしての競合はいます。また、リアル小売店舗の「@cosme store(アットコスメストア)」も運営しているので、こちらはドラッグストアの「マツモトキヨシ」や「プラザ(旧ソニープラザ)」などが競合に当たります。ただし、アイスタイルという会社全体で見ると、競合はいないビジネスモデルになっています。それが当社の特徴でしょう。
大薗: もう少し具体的に聞かせてください。強みである競争戦略とはどういうところでしょうか。
吉松: 当社の最大の武器は、ユーザーと数多くのコスメ商品データがひもづいた巨大なデータベース(DB)です。このユーザーデータはネット上のものだけではなく、リアル店舗での購買履歴データも含まれます。いわゆるオムニチャネルで、店舗顧客にポイントカードを発行し、それをオンラインでも使える形にしてネットのユーザーIDと繋げています。
このDBの特徴は、化粧品メーカーなどが自社の顧客DBでは網羅できないデータを持っていることで、メーカーはアイスタイルのDBを活用して消費者にアクションを取ることができるのです。
大薗: 従来からメーカーも流通・小売ベースでの情報は持っていましたが、必ずしも顧客個人とひもづいていませんでした。アイスタイルはそれを個人とひもづけているわけですが、これが実現できるとどうなるのでしょうか。
吉松: アンケートを送ったり、グループインタビューに呼んだりと、顧客一人一人に向けて直接アプローチできるようになります。今までメーカーは小売データとして分析できるものは持っていたでしょうが、顧客へのアクションができませんでした。
大薗: ほかにもコスメ関連の情報サイトはたくさんありますが、アイスタイルは幅広い商品を網羅し、それをユーザー個人とひもづけたDBを持っているのが差別化ポイントということですね。このDBを形作っているのは、商品に対するユーザーの口コミ情報です。口コミ情報の中立性をどのように維持しているのですか。
吉松: アイスタイルのビジネスを始めたころによく質問されたのが、「クライアントである化粧品メーカーなどからお金をもらっているのに悪いことが書けるのか」ということでした。実際にはたとえ商品の悪い点などが書かれたとしても、メーカーが削除を求めたり、それを理由に広告を出稿しなかったりということもありません。
悪口だけでなく、サクラのように不自然に商品を持ち上げるような書き込みもありますが、これらはすべて監視していて、例えば、悪質だと思われる投稿は削除するなどすぐに対処できる体制を整えています。こうした取り組みなどからも口コミ情報の中立性やユーザーからの信頼性を獲得しているといえるでしょう。
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