化粧品メーカーには真似できないアイスタイル独自のデータ戦略:ポーター賞企業に学ぶ、ライバルに差をつける競争戦略(3/5 ページ)
国内最大のコスメ情報サイト「@cosme」を運営するアイスタイルが、ユーザーである消費者のみならず、顧客企業である化粧品メーカーからも支持を集める理由――。それは創業以来築き上げてきた独自のデータベースにあるのだ。
リアル店舗の運営に踏み切った理由
大薗: 2007年に1号店をオープンした@cosme storeは、@cosmeの姉妹サイトであるEC事業と合わせると今や売り上げが主力のマーケティング事業と並ぶほどの規模に育っています。ネットで始まった会社がリアル店舗を運営するのは抵抗があるように思えますが、自然な流れだったのでしょうか。
吉松: 株主からはかなり反対されました。ネットのビジネスモデルはアセットを持たないからこそのスケールが利点なのに、なぜやるのかと。しかもドラッグストアが伸びていた時期だったので、コスメの専門店をやることへの反発も強かったです。
小売に参入したのは、@cosmeで商品がどんなに人気になっても、従来の流通には影響力がほとんどなかったからです。なぜかと言うと、例えばドラッグストアの仕入れ担当者に@cosmeの人気商品データが届いていなかったわけです。各メーカーの営業マンが自社の製品データを届けるだけで、その価格と割引率だけで交渉しているような状況でした。
そこで、流通側にネットデータを反映させる仕組みを作ると同時に、データを活用したら商品が売れることを証明する必要がありました。ただし株主の反対があったので、最初は私個人の資金でスタートし、収益が出たところで事業を連結しました。
大薗: @cosme上で商品の人気があれば、メーカーはこのデータを使って流通に働き掛けるのではないかと思いますが、なぜそれが起きなかったのでしょうか。
吉松: メーカーにとって最も大切なのは、在庫リスクを減らすことです。例えば、商品A、Bがあるとします。たとえBが@cosmeで圧倒的に人気があり、売れると思っていても、在庫をたくさん抱えるAに販促費がつけば、営業マンはこちらを何としてでも流通にねじ込もうとします。そこには@cosmeで人気かどうかという発想はまったくありません。
これがシャンプーなどのマス商品であれば、人気を基に2回目以降のロットを考え直すことができますが、化粧品は季節ごとに商品チェンジするのが原則なので、基本的には1度作ったらおしまい。データを生かす機会がありません。
実は化粧品業界は出版業界と似ています。新刊は、もちろん中身も重要だけど、それ以上にタイトルで消費者の関心を引っ張らなければなりません。再販制度があるし、多品種小ロットである点も化粧品と同じです。出版にはAmazonなどの口コミ情報サイトがあるので、それなら化粧品業界でも作れるのではと考えたのがスタートです。
ほかの口コミサイトは手掛けないのかとよく聞かれます。ネット業界の人は口コミサイトを作り、ページビューをたくさん稼ぐことが成功へのパスだと思っているようですが、そうは思いません。化粧品は多品種小ロットで、単価が1000〜3000円ほどだからこそ成り立っているのです。耐久消費財であるクルマの口コミサイト、あるいはコモディティ的な消費財であるミネラルウォーターの口コミサイトなんて成立しないでしょう。
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