「今までの延長線上では不可能」 ファスナーの雄・YKKが挑むビジネス変革:ポーター賞企業に学ぶ、ライバルに差をつける競争戦略(1/4 ページ)
世界約70カ国・地域に拠点を構えるYKKは、顧客の細かな要求・要望に対してスピーディーかつ高品質な商品を提供することで、現在の規模にまでビジネス成長してきた。しかし、将来を見据えたとき、取り組むべき事柄はまだまだ多いという。
1934年1月、YKKの創業者である吉田忠雄氏が東京・日本橋でファスナーの加工・販売をスタートした。それから約80年。同社は今やファスナー商品において世界的なリーダーの地位に上り詰めた。
2015年3月期の決算において、同社のファスニング事業はスポーツアパレルやアウトドア関連の顧客への販売好調などの要因により、売上高は前年同期比8.5%増の3132億6400万円、営業利益は同15.2%増の574億4800万円と増収増益となった。
そうした中で同社は2014年度、ユニークな競争戦略によって高い収益性を達成・維持している企業を表彰する「ポーター賞」(一橋大学大学院 国際企業戦略研究科:一橋ICS主催)を受賞した。そこで今回、YKKのビジネス成長戦略や今後の経営課題などについて、一橋ICSの大薗恵美教授が、同社の猿丸雅之社長にインタビューした(以下、敬称略)。
材料から一貫生産する理由
大薗: ポーター競争戦略論の核となるのは、独自性のある戦略です。猿丸社長は、YKKのファスニング事業のユニークさはどこにあるとお考えでしょうか。
猿丸: まず会社全体としては、非上場企業というユニークさはあります。一般的に言われるように、比較的資本市場のステークホルダーにとらわれず、自由なことができるという利点はありますが、もちろん好き勝手なことをしているわけではなく、透明性を保った経営をしています。非上場企業として約80年間、創業者が唱えた精神、理念、考え方を守りながら、メーカーに徹しているという点はユニークだと思います。
加えて、ファスニング事業においては、材料から製造設備、製品までの一貫生産を行っていることや、積極的に海外に出て理念経営をベースに事業展開していることも特徴的と言えるでしょう。また、それが競争力になっていると考えています。
大薗: 材料からの一貫生産も競争力になり得るのでしょうか。
猿丸: 何を持って競争力なのかということですが、昨今だと原価抑制などコスト面に目がいきがちです。しかし、競争力とはそれだけではないのです。YKKが部材の材料にまでさかのぼって作っているのは、材料部門における要素技術が蓄積され、社外に依頼するよりもはるかに幅広い研究開発ができるからです。
単によそから買ってきたものを加工するだけではない、そうしたことが最終的に競争力に結び付くのです。決して他社から購入するとマージンが高くなるからという考え方で一貫生産を行っているわけではありません。
例えば、繊維材料に関して、現在は6割以上を社外から調達していますが、並行してインドネシアの拠点でも生産工程を持っています。コストだけを考えればすべて社外から調達したほうが安いでしょうが、そうすると社内の繊維に関する技術が完全になくなってしまいます。こうした社内の技術力は最終的な商品の品質に反映されます。競争力とは単にコストだけの話ではないのです。
関連記事
- 初志を貫く! 広告で収益を上げない東京糸井重里事務所
Web広告収入という選択をせずに、主にオリジナル商品の販売で年間28億円の売り上げを達成している東京糸井重里事務所。その事業戦略について、同社CFOの篠田氏と一橋大学大学院の大薗教授が対談した。 - お客様本位――これこそがユナイテッドアローズの原理原則
日本のセレクトショップとしてトップレベルの売り上げを誇るユナイテッドアローズ。その強さの源泉は何か。同社のコアコンピタンスについて、同社上席執行役員の佐川氏と一橋大学大学院の大薗教授が対談した。 - 「常識が通じない」マツダの世界戦略
「笑顔になれるクルマを作ること」。これがマツダという会社が目指す姿だと従業員は口を揃えて言う。彼らは至って真剣だ。これは一体どういうことなのか……。 - 生産台数9000万台超! ホンダのスーパーカブがスゴい
世界中で販売されているスーパーカブ(ホンダ)の累計生産台数が9000万台を超え、あと数年で1億台を突破しそうだ。50年以上前に発売されたスーパーカブは、なぜ今でも売れ続けているのだろうか。ホンダの広報部に聞いた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.