携帯に主役の座を明け渡すPC──CeBIT雑感

もはやPCが面白かった時代は終わってしまったのか。CeBITでは,盛り上がる対象が確実に移りゆきつつあることが感じられた。

【国内記事】 2001年3月29日更新

 今年も例年通り,ここドイツのハノーバー市ではCeBITが行われている。そして,6日間の会期はあと数時間で終了しようとしている。その中に筆者はおり,今回のCeBITの異様な雰囲気と,また,ここ数年来のコンピュータ関連ショウの大きな変化を思い出しつつこの文章を書いている。

CeBITの巨大さをご存じ?

 既にご存じの読者諸兄も多いとは思うが,念のため解説すると,CeBITとは毎年一回,2月か3月にドイツのハノーバー市で開催されるコンピュータ関連のショウだ。もともとは事務機器の展示会だったのが,時代の趨勢に合わせていまや押しも押されぬIT関連の巨大トレードショウになっている。

 米国で毎年11月に開催されるCOMDEX Fallや,1月のCESと並び語られることの多いCeBITだが,ほかの2つの展示会と違うのは,常識はずれに巨大な展示会場と,ヨーロッパという場所柄もあっての通信関連企業の力の入れ具合である。

 特に,ハノーバーというドイツの北に位置する市は,主な産業,というよりも市自体が「展示会」を行うことを主収入源としていることもあり,その展示会場の広さはただごとではない。COMDEX FallやCESの行われるラスベガスの各会場を合計した何倍も大きく,日本で例えていうならば有明のビッグサイトがラクに30個分以上入るスペースで開催される。

 その巨大な会場が全て使用されるCeBITはハノーバー市としても意識するイベントのようで,その期間は交通機関も全てCeBIT用に規制される。

 有名なドイツの高速道路アウトバーンも,会場のオープン時,クローズ時には本来は中央分離帯を中心に行き来している道路が全て一方通行に使用される。本来なら逆方向に向かうはずの車線を規制に従いレンタカーで走ると,あらゆる交通標識の指示を無視して走ることになる。これはなかなか痛快である。

 そして,たとえば車で行くなら,市外から一時間近く走るとその巨大な会場が見えてくる。筆者は例年通り,今年もその会期全てをハノーバー市ですごした。

 この期間は世界中の関連するインダストリ各社の主要メンバーが現地に足を運び,展示会の主目的である商談のみならず情報交換の場としても重要な場所となっている。Webや電子メールをはじめとする情報通信の発達で,「トレードショウ」の重要性は薄れてきており,単なる「展示会」になってきているという事実もあるが,変わらず,この会場で同窓会のように会う仲間との情報交換は重要だ。

 また,同時に各ブースの規模や,繁盛具合はこれからの市場を占うのに重要な要素となる。そんな中で,今年のCeBITを一週間近くうろついた感想は,あまりにはっきりしたものであり,また,筆者の知る限り同じ感想を持った業界人は非常に多かった。いや,ほとんど皆,異口同音に同じことを言っていた。

元気すぎる携帯電話

 もはやPCに関しての興味はユーザーの間に見られない。少なくとも,従来のWindowsやMacintoshというような,キーボードの付いた「パソコン」を見ているのは,一目で分かるマニアが,ごく少数だけだ。

 あとは,ノートパソコンを持ち歩くというスタイルに憧れる若いビジネスマン&ウーマンがぽちぽちといるくらい。もちろん,アンケートを取ったわけではないのであくまで筆者の主観としておいてもらいたいのだが……。

 その分,携帯電話が元気だ。元気すぎるといってもいい,また,セットトップボックスと呼ばれるような,Webアクセス機能などを家電的にやさしくお茶の間(というものがヨーロッパにあるかは疑問だが)に提供するようなマシンの展示も目立ち,それを熱心に触る「一般人」の姿が印象的だった。

 ビッグサイト3つ分は少なくとも携帯関連の展示に使用されている。Nokia,Ericsson,Siemens,Alcatel等々のヨーロッパ勢は巨大なブースを固めて出展している。さらに,会場の外にも巨大なコンテナを運び込みそこを展示場所(というか,ショウ的なつくりで展示)に使用している。

 ブースの中はいつでも身動きができないほどの満員状態。外のコンテナは長蛇の列。それを作っているのは私たちプレスではない(われわれはあくまでごく少数である)。見学に来た一般来場者と,ビジネスマンたちである。人種も老若男女も全く問わない。その対応をするメーカー各社の説明員の顔も自信に満ちている。

 また特に目立ったのは,通常のブース以外にパナソニック,三菱が携帯電話のために作った通信関連専門のブースだ。パナソニックは日本で現在行われているNTTドコモとの音楽配信サービス「M-stage music」用の端末も含め,さらにiモードのことまで含めて展示を行っていた。

 ドイツのモニターにでかでかと写るiモードのロゴはなかなか強烈だ。また,30分ごとに会場内の一角には三人組の男性コーラスグループが現れる。スタンダードナンバーの替え歌でパナソニックの電話機をアピールする内容を熱唱するのだが,英語の回とドイツ語の回が交互に行われるのがこちら風である。

 三菱は「MITSUBISHI ELECTRONICS」という名前は表に出さず,「TRIUM」という去年から発足させた現地ブランドの浸透に力を入れている。こちらは携帯電話の雰囲気も,ブースも,新聞やあちこちでみかける広告も全てヨーロッパのテイストになっている。

 また,今回はNTTドコモも展示を行っており,英語版の資料で同社の“モバイル”に関するアピールを行っていた。またiモードに関しての展示を行っており,その是非はともかく,世界中から「成功例」として注目されていることは間違いない盛況ぶりだった。

PCが面白かった時代の終焉

 では,ひるがえって,閑散としていた展示は何だったのだろう。もしかしたら単に筆者の訪れたタイミングが悪かったからなのかもしれない。筆者の目にはPC関連の展示があまりに寂しく見えた。

 過去においては,間違いなく台湾勢を中心とするマザーボードや関連機器のブースは大盛況だった。対応する彼らの顔も生き生きとし,その勢いを感じるには十分過ぎる時代が確かにあった。

 ほんの数年前は,大盛況で引きもきらない来場者が,カタログを我先にと奪っていった。筆者もその一人であったし,特にサウンドカードやマザーボード,グラフィックカードは非常に面白いものだった。だが今回は,彼らが何をさぼっていたわけでもないのだが,閑散とした雰囲気は不気味なほどであった。

 そして,筆者を含むプレスたち(筆者は日本から来たプレスと群れていたので,あくまでそのつもりで読んでいただきたい)が口々に言うのも同じく,「PCは,つまんなくなったなぁ」であった。そして,その言葉はさらに続く。

 「PDAが面白い,とは言わないけれど,携帯電話とか家電系はやっぱり面白いなぁ」「うんうん,デジカメとかPC家電は面白いなぁ。でもPC自体は,もうどうでもいいや」

ルール作りの重要さと,ルール無用の高揚感

 ある意味,PCはルールに規制されている世界といえる。ほぼ標準のOSを使用する時点で主なスペックは決まる。あとは「速い」か「でかい」かのどちらかである。それで全てが可能になる。買ってきて箱を開ければネットワークへの接続はいまや普通にできるし,そのまま安定して使用できる。われわれは過去にそれを強烈に望み,それが実現された。

 それに比べて,携帯電話やデジカメ,セットトップボックスは「ルール無用」である。もちろん,使用するOSや部品にそれほどバリエーションはないのだろうが,それでも最終的な製品に付加される機能は,基本機能さえしっかり付いていれば,あとは「音楽再生機能」であれ,「カメラ」であれ,すばらしくバリエーションに富んでいる。

 そして何より,これからどんどん進歩してゆくであろうと十分感じられる高揚感に満ちている。これはその昔,われわれがPCに感じたものだ。それは既にPCからは失われ,携帯電話をはじめとする新しいスタイルの機器が,新しいスタイルでそのオーラを発している。

 一般来場者もビジネスマンも,そして,われわれプレスも,「なぜいまこうなっているのか」のいろいろな理屈はこねるが,結局はその高揚感を感じ取って,その中に飛び込んで楽しんでいるにほかならないと筆者は感じている。

 ぱくついた強烈にウマいソーセージの味や,古い町並みで飲むダークビア,強烈に寒い北ドイツの話など,一回取材に来るといろいろ思い出に残るのがCeBIT。その中でも,今回のはっきりと感じられる高揚感と,それが通り過ぎた後のPC関連の展示との落差は,あまりに激しく私の目に映った。

 もしかすると,読者諸氏自身,あるいはその知人の方の中にも今年のCeBITに参加された方がいるかもしれない。もしも,筆者と同じようなことを言われる方がほかにもいたならば,この筆者の文章が決してひねくれた見方ではないことを証明できると思う。そして,筆者はそれを確信している。

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