Mobile Panic 第9回:
次世代携帯普及に対するドコモの戦略的矛盾

FOMAの契約者数が2002年3月末で8万9千と,目標の半分程度の惨憺たる結果になった。これを受けて「次世代携帯戦略に影」といった話が盛んに聞かれるようになっているが,そもそも問題だったのは,設定された目標そのものの信憑性だったのではないだろうか。

【国内記事】 2002年4月12日更新

  NTTドコモでは当初,2001年10月にサービスインしたFOMAの目標普及台数に,「2002年3月時点で15万契約」というものを掲げていた(2001年5月の記事参照)。 ところがフタを開けてみると,3月末段階での契約者数は約8万9千(2002年4月の記事参照)だった。目標の半分あまりという惨憺たる結果に終わったのである。

 当然,このことは業界で大きな話題となっている。ただ,その議論では,どうもこの「目標が未達であったこと」ばかりに注目が集まっているきらいがあるようだ。しかし筆者は,そもそもさまざまな場面で発表されてきたドコモの目標数値そのものに,矛盾があるように感じざるを得ない。

ドコモがこれまでに掲げてきた次世代携帯の普及目標

 改めてドコモがこれまで掲げてきた次世代携帯電話の普及目標数値を整理してみよう。

 2001年5月30日の記事にまとめられているように,ドコモは,2002年3月までに15万契約,2003年3月までに200万契約,2004年4月までに500万契約という普及目標を,FOMAに対し掲げていた。

 この数値目標は,第1回のコラムの際にも触れたが,KDDIがcdmaOne投入にあたり1年10カ月で達成した数値とほぼ同じ(2001年3月の記事参照)。それをドコモのFOMAは3年かけて達成していくという見解だ。

 世界に先駆けた第3世代携帯電話の投入の割には,あまりにも少ない数字に“モバイルにもブロードバンドの波が”,という業界の期待に水をさす形となった(しかも,その数字さえ達成できなかった)。そして2004年3月以降も,どのような普及曲線を描くのかという点に関しては,全く触れられずに終わっていた。

 また2002年1月のEC研究会フォーラムでは,2004年3月時点での普及目標が600万契約に上方修正されたようだ(2002年1月の記事参照)。2004年3月以降の普及に関しては,「全国カバー率が97%を越えるこのタイミングから,FOMAは一気に普及していく」という口頭での見解は示した。しかしそれが具体的な数値や論拠には落ちてきていない。

 そしてこれら3Gに関する普及目標とは別軸で,第4世代携帯電話を2006年にも端末を投入するという見解や(2001年2月の記事参照),第4世代携帯電話を2010年を目処に実用化(3月18日の記事参照)という発表がなされている。

次世代携帯電話の普及予測全体としての矛盾

 これらの見解をつなぎ合わせてみると,ドコモの掲げる次世代携帯電話の普及予測が,全体としてぶれが生じているのが見て取れる。

 まず3G。ドコモによると,2004年3月までは500〜600万契約程度の普及だが,全国カバー率が97%を越えるそれ以降は急激な普及拡大曲線を描くという。「アナログからデジタルへと切り替わったよう」に,ということは数千万契約のレベルにまで普及を見越しているのであろう。

 しかしアナログからデジタルへの移行期は,携帯電話そのものの普及期に重なっていたために急激な普及曲線が描けた。携帯電話がここまで一般化してしまった現状,なぜ同じような普及曲線が描けるのか。またなぜサービスインから3年も経過してからの普及拡大なのか。全国カバー率97%という理由だけでは,その普及拡大を説明し切れない疑問がまずは生じる。

 そして,この3Gの普及予測を正しいとして見た時,次なる矛盾が4Gで生じる。4Gの2006年端末投入説が正しいとした時,3Gが急激な普及曲線を描き始めるのが2004年なのにもかかわらず,そのわずか2年後に次々世代サービスを開始することになる。これは,ようやく普及拡大が本格化してきた3Gを4Gが踏み潰していく……,そんな大胆な世代移行戦略を描いていることになってしまうのである。

 では2010年4G実用化の説を支持するとどうか。3Gで描く普及曲線との兼ね合いではスムーズな規格移行戦略に映る。が,逆にこのタイミングでは無線LANなどを用いた高速モバイルブロードバンド環境がかなり整備済みであることが予測されるため,遅きに失した感がどうしても否めない。

 その上,ドコモ自身も2002年4月からの無線LANでの実験サービスを開始することも発表している(3月15日の記事参照)。無線LANでメガビットクラスの高速モバイルブロードバンドサービスを2002年時点から実践しながら,目玉の4Gの投入が2010年というのでは,あまりにも間があき過ぎるというものだ。

 “無線LANの発展系が第4世代携帯電話にそのまま移行する”との説もあるため,それが正しければこの矛盾は回避されるのかもしれない。が,もしそうであれば現在のドコモの無線LANに対する出遅れ感は,他社と比べて,既に“致命傷的”だといわざるを得ない。


 このように3G,4G,無線LANに対するドコモの見解を見ていくと,次世代携帯電話の普及予測は,全体としてどうにも矛盾を感じざるを得なくなってしまうのである。

矛盾を内包する普及予測に対して

 ドコモがこうした矛盾を解消するような,整合性のある世代移行戦略を本当は持っているのかどうか。そしてその普及展開ロードマップをどのように描いているのか。それは同社がこれまで示してきた情報からは,残念ながら予測できない。もしかすると同社は,有線系のNTTグループ各社が無線LANを武器に移動体分野に本格参入してくるといった,移動体通信業界の戦国時代を迎える中,本当に内部的に混乱してしまっているだけなのかもしれない。

 また,モバイルブロードバンドという概念を流布させるために,もしくはその先鋒役がドコモであるとの印象を植え付けるために,「3G,3G」と声高に叫んではいるだけで,モバイルブロードバンドを本格化させるのは,実は4G(もしくは無線LAN)──といったような,“中間世代スキップ”的なウラ戦略を隠し持っているという憶測もできる。

 その真意のほどは定かでない。だが,いずれにせよ,これまでにドコモが掲げてきた普及目標,もしくはその数値を元に立てられた,右肩上がりの次世代携帯電話の普及予測には,あまり信憑性がない,ということだけはいえそうなのである。

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[イエルネット 杉村幸彦,ITmedia]

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