Mobile:NEWS 2002年11月14日 10:37 AM 更新

テレビ映像をリアルタイムで立体映像に〜マーキュリーシステム

裸眼で立体視が可能なディスプレイが、携帯電話を皮切りに登場した。そこで問題となるのは、立体で見る映像──コンテンツだ。マーキュリーシステムは、静止画から立体画像を生成する技術を開発。ドコモの端末「SH251iS」に搭載された。テレビ放送などの映像も、リアルタイムで立体映像に変換する

 通常のカメラで撮影された静止画(2D)から立体画像(3D)を生成──千葉・マーキュリーシステムは映像を3D化する技術「Mercury3D」を開発。ディスプレイなど各種表示デバイスへの組み込み用途などにライセンスを開始する。

 処理は高速で、2GHzのCPUを持ったマシンで、NTSC(フルカラー・720×480ピクセル)の映像をリアルタイムで立体化できる。動画の立体化においても「動画のフレーム合成による立体化は行っていない。1枚1枚を立体化している」と同社の江良一成社長は話す。

 「プログラム総量は100Kバイト程度」(同社ステレオスコーピー事業部の斎藤寿一部長)というコンパクトさが、高速処理に貢献している。「携帯やPDAであれば、ディスプレイへの表示系は既に持っている。(立体変換のアルゴリズムだけであれば)30Kバイト程度」(江良氏)と、携帯機器への対応も十分こなす。

 3D液晶を搭載したNTTドコモの携帯電話「SH251iS」にも「Mercury3D」が搭載され(11月13日の記事参照)、カメラで撮影した静止画を簡単な操作で立体映像に変換できるようになっている。

 1枚の静止画から立体映像を生成する技術はさまざまなものが研究されてきたが、同社は独自のアルゴリズムを使い実用に堪えるクオリティを実現した。「エンタテインメント系では十分な評価をもらっている。医学分野でも研修生が使うには十分」だと、江良氏は自信のほどを話す。

 ステレオカメラで撮影してもなかなかうまくいかない黒バックのシーンや、花火など手前から奥にかけて輝度の高い物体の立体化もこなす。実際の立体映像をお見せできないのが残念だが、その臨場感は驚くほど。同社では立体化の研究者にも数多くのデモンストレーションを行ったが、本当に静止画から立体化を行っていることを信じてもらえないことも多々あったという。

3Dディスプレイが花開くのに必須の技術

 マーキュリーシステムの立体化技術が注目されるのは、これまで大がかりだった3D表示ディスプレイが身近になってくる可能性があるからだ。

 シャープと三洋電機はそれぞれ独自に裸眼で3D映像が視聴できる液晶ディスプレイを開発(10月4日の記事参照)。シャープは2インチサイズの液晶パネルから生産を予定しており、「SH251iS」にも採用されている。

 しかし、立体映像の表示には専用のコンテンツが必要になる。通常は人間の眼と同じように左右に2つのカメラを並べた「ステレオカメラ」で撮影し映像を作成するため、コンテンツが極めて少ない。

 ところが、マーキュリーシステムの技術を利用すれば「過去の資産がそのまま無尽蔵に使える」(斎藤氏)ことになる。しかも、NTSCクラスの映像のリアルタイム変換が可能なため、テレビ放送や映画などをそのまま3Dで視聴できる。

 例えばテレビ受像器に同社の立体変換機能を組み込めば、スイッチ1つで表示を立体化できるようになる。しかも、視聴者は立体映像を強制されるわけではない。「(立体で)見るところだけ、このソフトを使えばいい」(斎藤氏)ようになるわけだ。

9年の沈黙を破って登場

 高い技術力を持ちながら、名前があまり知られていないのは同社が9年間、表舞台に出ずに独自開発をしてきたから。ベンチャーキャピタルや海外資本なども入っておらず、技術もすべて独自のもの。

 その変換クオリティは多くの企業が認めるところだ。先日シャープが中心となって立ち上げた3D市場開拓のための「3Dコンソーシアム」14社の中にも、ソニーや東芝、三洋電機、マイクロソフトなどの名前に交じってマーキュリーシステムの名前がある(9月27日の記事参照)。

 節句人形の製造販売を行う会社のコンピュータ部門として誕生した同社は、図面や地図の自動ベクトル化、自動ポリゴン化を業務としてきた。1997年には3D画像作成技術を特許出願し、NHK衛星放送による「NASAの火星探索」番組で、火星から送られてくる静止画をリアルタイムで3D画像に変換するという業務も手がけた。

 そんな同社だが、「ごく最近から」(江良氏)3D関連企業との提携を進めつつある。「これまでは(3D変換が)コアになる技術だとは思っていなかった。しかし、これは1社で独占するものではない」という江良氏の思いからだ。

 今後は静止画の3D変換技術のライセンスをはじめ、変換業務の受託なども積極的に行う。またロジックのチップ化(半導体回路化)も念頭に置いているという。

 江良氏は「2眼(ステレオカメラ)と張り合うつもりはない。あくまで(立体映像の)普及の役割を担いたい」と話す。「立体は映像が取り残した最後の情報」だと江良氏。表示デバイス側の準備は整ってきた。同社の技術は、“コンテンツ”という最後の課題の切り札になりそうだ。



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[斎藤健二, ITmedia]

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