低温ポリシリコンTFTの本当のメリットとは?低温ポリシリコンTFTは、液晶パネルの周辺回路を内蔵できることが大きな特徴の1つ。将来的にはCPUやメモリなどの統合も期待されている。しかしモバイル機器向けディスプレイでは、いったん液晶パネル上に統合された周辺回路が外付けへ変更されたりしている。
次世代モバイルディスプレイの基礎技術として、脚光を浴びる低温ポリシリコンTFT(LTPS、2002年10月の記事参照)。そのメリットとして、さまざまな周辺回路を液晶パネルに統合できることが言われている。 確かに、LTPSのほとんどは液晶を駆動するドライバを統合しており、それによって狭額縁化、高精細化が可能になった。また、シャープはLTPSの一種であるCGシリコンを使い液晶にCPUを内蔵する技術も開発している(2002年22型の記事参照)。
アモルファスシリコンTFT(A-Si TFT)は外付けの駆動ドライバLSIが必要。小型液晶を高精細化するにはドライバを載せるスペースに限界があった。LTPSでは、ドライバ回路を基板上に載せられるため、額縁を小さくしたり高精細化が行える しかし、「載せられるものは何でもLTPS上に載せればいい」というわけではない。
実際には、携帯向けLTPSでは周辺回路の統合はそれほど進んでいない。それどころか、いったん統合された回路が外に出されている状況だ。 東京ビッグサイトで開催している「フラットパネルディスプレイ製造技術展」の技術セミナーで各社の技術者がLTPSの現状を話した。 LTPSへの周辺回路内蔵の研究は盛んだが、実商品では、「(周辺回路は)実際は逆に出ていっている。インテグレーションには低消費電力化が壁だ」と三洋電機ディスプレイカンパニーの横山良一氏は話す。 三洋電機の携帯電話向けLTPS液晶は、当初はドライバやHスイッチなど複数の周辺回路を統合していた。ところが最新型では統合しているのはVドライバ、RGBスイッチだけだ。PDA向け液晶では、統合していたレベルシフターを最新型で取り除いている。 これはモバイル機器で最優先される消費電力を抑えるためだ。確かにLTPS上にはさまざまな回路を形成できるが、LSIが3.3〜5ボルト程度で動作させられるのに対し、現状LTPS上の回路は8〜12ボルトが必要。「一番差が大きいのが消費電力。電圧が大きく違うから差がつく」(シャープシステム液晶第1事業部の久保田靖氏) その結果、統合化のトレンドに逆行して外部に周辺回路を追い出したほうが低消費電力となってしまう。三洋電機の携帯向け液晶パネルの消費電力は、駆動LSIとLCDパネルを合わせて6ミリワット(1.9インチ、QCIF)。これがDACまで統合した開発品(2.2インチ、CIF+)では、「駆動LSIを合わせると100ミリワットを超えてしまう。実用レベルではない」(横山氏)。
三洋が示した周辺回路を統合したLCDパネルの消費電力ロードマップ コスト的には外付けのLSIを使うほうが高く、「こんなLSIでも300円や400円じゃ収まらない」と横山氏は言う。それでも携帯電話の場合、消費電力の低下が優先されるわけだ。
結局、LTPS上に回路を形成する場合、外付けLSIを使った場合と、コストや消費電力、性能の面で比較することになる。久保田氏は「対LSIとしてどうやるか。性能で100倍の差があると、単体で勝負しても負けてしまう」と話す。 では、どんな回路なら統合する価値があるのか。シャープの久保田氏と三洋の横山氏が共に候補として挙げるのは、面積が必要なデバイスだ。どうせ大きくなってしまうLSIなら、大きさが気にならない機能を盛り込もうというわけだ。 久保田氏は、タッチスクリーンや光センサー、指紋認証、温度センサーなどをLTPSに埋め込むという例を挙げる。「液晶なので、2次元的に広がっている部分を生かしたい。センシングデバイスとの相性がいい」 横山氏が挙げるのは、既に実用化しているという指紋センサーだ。「指紋センサーなので面積が必要になる。シュリンクできないから非常に向いている」
もちろん、将来的に技術が進めばLTPSに組み込んでメリットが出る回路はさまざまだ。課題となるのは、微細化と電子の高速移動化、TFTの閾値電圧の三つだと横山氏。 微細化を進めてゲート長を短くすれば、低電圧化で増加する遅延時間に対処できるという。電子の移動度を高めることで、高周波駆動しても電子が追従できるほか、小型化して抵抗値が上がっても電子が効率よく流れる、低電圧でも十分な電子が供給できるという利点がある。 シャープがシステム化のゴールとして目指すのは、CPUから無線LANまですべてを液晶パネル上に統合したシートコンピュータ(2002年10月の記事参照)。そのための第一歩として、20M〜30MHz程度の周波数で回路を動かせるLTPSの開発を進めている。電子移動度は400cm2/Vs、デザインルールは0.8マイクロメートルを2005年には実用化するとしている。 三洋の横山氏が携帯向けディスプレイへの統合を目指しているのは、DAC(デジタルアナログコンバータ)やメモリ、タイミングコントローラなどだ。2005年には、移動度300cm2/Vs、デザインルール1マイクロメートルを実現し、8ビットのDAC、XGA相当の表示が可能なスピードを持つタイミングコントローラの搭載を狙う。画素メモリ(2001年4月の記事参照)については2005年時点でも2〜3ビットまでしか載せられず、「まだ容量が足りない。ハードルが高い」。 シャープが示したシステム液晶のロードマップ(上)。三洋が示したLTPS TFT LCDのロードマップ(下)
関連記事 次世代ディスプレイに欠かせない「低温ポリシリコンTFT」技術 高輝度・高精細で薄型・軽量、振動や衝撃にも強い特性から、モバイル機器向けLCDの主役になりつつある「低温ポリシリコンTFT液晶」は、有機ELなど次世代ディスプレイの要素技術にもなっている。CEATECのカンファレンスで、低温ポリシリコンTFTの技術動向が語られた 最強のモバイル向け液晶は「プラスチック基板+低温ポリシリコン」 薄く軽量で衝撃にも強いモバイル向けディスプレイとして、各社が開発に力を入れているプラスチック基板の液晶ディスプレイ。低温ポリシリコンTFTとの組み合わせで、プラスチック基板のメリットを最大限に生かせるという 夢の“シートコンピュータ”実現に向けて シャープと半導体エネルギー研究所は、液晶パネルのガラス基板上にCPUを形成することに成功した。これがどうして“シートコンピュータ”に結びつくのか。そしてガラス上に回路を形成できるようになるまでには、どのような道のりがあったのだろうか メモリ内蔵液晶を3社が展示──電子ディスプレイ展 液晶の各画素にメモリを内蔵することで、待機時の液晶の消費電力を数ミリワット以下に抑える……。そんな技術を使った液晶が、3社から参考出展された。 シャープ、ガラス基板上にCPU「Z80」の形成に成功〜CGシリコンで シャープと半導体エネルギー研究所は世界で初めてガラス基板上の8ビットCPUの形成に成功した。液晶ディスプレイにCPUを組み込む技術が実証されたことで、“シートコンピュータ”などへの道がひらけた。2005年をめどに、商品化する QVGAで止まらない〜携帯液晶の次 もはやQVGA液晶はハイエンド携帯のスタンダード。しかし高解像度化の流れは止まらず、次はCIFサイズ(352×288)になるという。26万色に達した発色は、続いて色再現性アップを目指す。EDEXで、携帯液晶の“次”を聞いた [斎藤健二, ITmedia] Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved. モバイルショップ
最新スペック搭載ゲームパソコン
最新CPU搭載パソコンはドスパラで!!
FEED BACK |