News | 2002年10月3日 11:59 PM 更新 |
「低温ポリシリコンTFT液晶」は、携帯電話やPDA、ノートPCなど可搬性が求められるモバイル機器向けディスプレイの主役になりつつある。高輝度・高精細で薄型・軽量、振動や衝撃にも強いというこの液晶は、有機ELなど次世代ディスプレイに欠かせない要素技術にもなっている。
10月3日に行われたCEATECのカンファレンスで、東芝松下ディスプレイテクノロジー・マーケティングプランニング担当の越後博幸氏が、低温ポリシリコンTFTを中心にした液晶の最新技術動向を語った。
TFT液晶は、透明なガラス板の上にシリコン膜のTFT素子を形成している。従来、このシリコン材料には、ガラス板に加工しやすい「アモルファスシリコン(a-si)」という非結晶体が使われていた。しかし、結晶になっていないために構造にバラツキがあり、電気抵抗も大きいという欠点があった。
ポリシリコンTFTは、TFT素子の材料として従来のアモルファスシリコンの代わりに「ポリシリコン(p-Si)」を使うもの。従来、ポリシリコンは高温でしかTFTを形成できなかったため高価な石英基板しか使えなかったが、低温でTFTを形成できる技術が開発されてガラス基板が利用できるようになった。これが「低温ポリシリコンTFT」だ。
「多結晶体のポリシリコンは結晶が整然と並んでいるため、電気抵抗が小さく電流が流れやすい。電子移動度(電子が動くスピード)は、アモルファスシリコンの100倍以上になる」(越後氏)。
電子移動度が高い低温ポリシリコンは、ドライバICをガラス基板上に一体形成できるために液晶パネルと外部回路との接続個所が減って、結果的に部品点数を少なくできるのだ。
「さらに、電子移動度が高いとTFTを小型化できるため、開口率(光を通す面積)が高くなる。つまり、同じ解像度ならより明るくなり、明るさを同じにすれば消費電力を下げることが可能となる。また、ドライバICを一体形成するために画素ピッチをより細かくすることができる」(越後氏)。
画素ピッチを細かくできると、小さな画面でより高い解像度が可能になる。また、一体形成で部品点数が減れば、振動や衝撃にも強くなる。まさにモバイル機器にうってつけのディスプレイというわけだ。CEATECの会場では、3.5型(対角89ミリ)でVGA(640×480ピクセル)表示を可能にした229ppiの低温ポリシリコンTFT液晶が参考出品されていた。
低温ポリシリコンTFT液晶の特徴である「高輝度」「高精細」「低消費電力」「耐衝撃性の高さ」は、このような構造上の仕組みや技術から生まれているのだ。
次世代ディスプレイにつながる低温ポリシリコン液晶のテクノロジー
電子移動度が高い低温ポリシリコンTFTは、応用範囲も広い。その代表例が次世代ディスプレイとして注目されている「有機EL」への応用だ。
素子が自ら発光する有機ELは、発光のためのエネルギーとして画素ごとに10マイクロアンペア以上の電流供給が必要となる。だが、電子移動度が低いアモルファスシリコンTFTでは、0.1マイクロアンペアしか供給できないため、有機EL素子を発光させることができないのだ。「低温ポリシリコンTFTなら1画素あたり15マイクロアンペア供給できる。アクティブマトリックス型有機ELの駆動回路には、低温ポリシリコンTFTが不可欠」(越後氏)。
そのほかにも、低温ポリシリコンTFTの応用範囲は広い。
今年5月に東芝が発表した「曲がる大画面TFT液晶ディスプレイ」にも、低温ポリシリコンTFTが貢献している。「ドライバICを内蔵している低温ポリシリコンTFTは、曲げた時の信頼性・耐久性に優れている。単に液晶を曲げるだけなら、フィルム液晶などもあるが、大画面で高画質な液晶を曲げられるところがポイント。カーブ形状の車のダッシュボードに搭載するといった新しいアプリケーションが考えられる」(越後氏)。
また、今秋登場するTablet PCの液晶ディスプレイにも、低温ポリシリコンTFTの技術が生かされている。「ポリシリコンTFT液晶は、駆動用のTAB ICがパネルの周囲に無いためデジタイザが組み付けやすい。当社のTablet PC用ポリシリコンTFT液晶はポケットにデジタイザを挿入するだけというシンプルなカンガルーポケット構造で組み込みを簡単にしている」(越後氏)。
さまざまな機能を液晶パネルに直接内蔵する技術「SOG(System on Grass)」にも、低温ポリシリコンTFTは欠かせない。「電子移動度を高めれれば、ドライバICだけでなく、コントローラやメモリなどいろいろなファンクションをガラス基板上に構成できる。電子移動度を高めることがFPDメーカーの研究テーマになっている。SOGによって将来的には、数ミリの板状のディスプレイにPCの機能を詰め込んだ“シートコンピュータ”も可能になる」(越後氏)。
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[西坂真人, ITmedia]
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