やっぱり見えないFeliCaのビジネスモデル
着メロ、カラー液晶といった端末の進化と、対応したコンテンツの進化が歩調を合わせて進んできたiモード。こうしたコンテンツの進化と共に、パケット通信量も増加してきた。ところが、iモードFeliCaサービスではiモードのときのようなポジティブフィードバックが考えにくい。がんばっているプレーヤーはドコモばかり──そんな状況になりつつあるのではないか。
iモードFeliCa対応端末4機種が発売になったものの、爆発的ヒットとはどうもいえない。
販売ランキングにもランクインせず(8月6日の記事参照)、あまり世間の話題にも上っていない。弊誌でもFeliCa関連記事を随時掲載してきたが、読者の反応は期待を下回るものだった。C-NEWSが実施した調査でも、iモードFeliCa対応端末に興味があると答えたドコモユーザーは51%に過ぎず、“今後の5年を担う”サービスの出足としてはスローペースだ。
その理由はいくつかあるだろう。当初の端末が506iであり、FOMAが1機種しかないこと。FeliCaサービスの本命と目されるJRのSuica機能が来年まで始まらないこと(4月13日の記事参照)、さらに身近に使える場所が少ないことなど──。
しかし何より気になるのは、これまでのiモードの成功を導いてきたポジティブフィードバックが、どうもFeliCaではうまく回っていないのではないかということだ。
プレイヤーはドコモだけ?
ドコモ自身が常々強調するように(2001年3月13日の記事参照)、iモードの成功はドコモだけの功績ではない。iモード向けに魅力的なコンテンツを作ろうと切磋琢磨してきたコンテンツプロバイダ、そのコンテンツをより快適に利用できるよう機能を向上させてきた端末メーカー。そういったiモードを取り巻く各社の努力がiモードを成功させてきた。
例えば着メロや壁紙だ。iモードの代表的コンテンツであるこの2つは、端末の機能強化と歩調を合わせて進化してきた。4和音から16和音、そして32和音、64和音へ。端末が進化すればコンテンツも進化し、魅力的なコンテンツがあるからユーザーは新端末へ買い換えた。液晶の進化も同じようなものだ。
だまっていても端末メーカーとコンテンツプロバイダが機能を向上させていってくれる。そしてユーザーは喜んでドコモに乗り換える──。こんなポジティブフィードバックをドコモはiモードで作り上げたわけだ。その中では、コンテンツが次第にリッチになりパケット利用量も増大していくという見事なビジネスモデルも回っていた。
ところが、iモードFeliCaサービスではどうか。これまでiモードの成功を支えてきた各社が、どうもiモードの時ほどはFeliCaに乗り気ではない。“がんばっているプレイヤーはドコモだけ”という印象なのだ。
FeliCaで差別化できない端末、収益に直結しないサービス
端末メーカーに言わせれば、FeliCa対応によって端末を差別化するのは難しい。「ウチの端末はより高機能なFeliCa対応をしています」とはいいにくいのだ。各端末メーカーが搭載しているFeliCaチップは、フェリカネットワークスが提供した同一のもの。
FeliCaはうまく通信ができればいいわけで、着メロの時のように「ウチの端末はより多和音で音がキレイ」だとか、壁紙のように「ウチの端末は色数が多くて明るい液晶」だというような差別化が難しい。
従来のコンテンツプロバイダも、FeliCaをどう自社のビジネスに結びつけるか試行錯誤している。デジタルコンテンツではなく、“リアルとの連携”がFeliCaの特徴だからだ。「FeliCaはいいんだけど、我々は何をやったらいいのか」。これまでデジタルコンテンツに携わってきたあるコンテンツプロバイダはこう話す。
FeliCa対応サービスを提供する“リアル”ビジネスのプレーヤーも、iモードFeliCaのメリットはあくまで付加価値だと捉えている。ユーザーへのサービス向上やロイヤリティプログラムの一環であり、FeliCaサービス単体で直接収益が上がるものではない。
FeliCaサービス導入企業に対して、ドコモがわざわざ初期投資をフォローしなくてはならないことを見ても(7月22日の記事参照)、FeliCaサービス提供企業の“本気度”が分かるというものだ。
iモードの5年間とは異なる、FeliCaの5年
ドコモ自身も、FeliCaを使ったビジネスモデルを明確に説明し切れていない。
iモードFeliCa発表時に話されたのは、おサイフケータイという生活に密着したサービスを提供することで、解約を減らす狙いがあるということだ(6月16日の記事参照)。「解約する人をどうやって引き留めるかが重要」(マルチメディア&サービス本部 マルチメディアサービス部長の夏野剛氏)。
長期的には、携帯向けFeliCaのライセンス料が収入となることも話された。しかし、コンテンツサービスの普及がパケット利用量の増大に結びつき、データ通信収入が増加する──というiモードの美しいモデルとは比べるべくもない。
解約率の低下を狙うあたり、収益拡大という観点で見れば、かなり後ろ向きな印象も受ける。
少なくとも、多くのプレーヤーが参加し、iモードの成功を自社のビジネスチャンスと考えて盛り立ててきた時期は終わりつつある。
いくつかの端末メーカーは、2005年度といわれるモバイル向け地上デジタル放送(1セグ放送)に向けて準備を進めている。FeliCa対応はもちろん行うが、大きな差別化のポイントはテレビにあるという判断だ。コンテンツプロバイダも、地上デジタル放送との連携を視野に入れた動きを活発化させている(3月11日の記事参照)。
いまでこそ4機種しかないiモードFeliCa対応端末だが、年末にはFOMA 901iシリーズが登場し(7月30日の記事参照)、ドコモの主流がFeliCa対応端末に移っていくだろう。しかしそれによってFeliCaが業界を巻き込んだブームになるかどうかは疑問だ。
iモードの5年からFeliCaの5年を迎えるにあたり、少なくとも取り巻くプレーヤーの顔ぶれが大きく変わることは間違いない。
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