「ハイブリッド」で実用化を目指すモバイル向け燃料電池:ワイヤレスジャパン2006
実用化へ向け、期待が高まる携帯向け燃料電池。ワイヤレスジャパン2006のモバイル用燃料電池フォーラムでは、燃料電池と充電池を組み合わせて実用化を早める「ハイブリッド化」が提案された。
携帯電話やノートPCなどの次世代電源として期待される燃料電池。ワイヤレスジャパン2006ではNTTドコモがFOMA用小型充電器の試作品を展示するなど(2006年7月14日の記事参照)、実用化に向けて着々と開発が進んでいる。21日に行われたモバイル用燃料電池フォーラム「携帯電話実用化への道程」では、水素ではなくメタノールを使う燃料電池への期待が寄せられたほか、「ハイブリッド化」により実用化を早めるアイデアが提案された。
技術的限界に近づくリチウムイオン充電池
モバイル燃料電池(マイクロ燃料電池)の基礎について、長岡技術科学大学 工学部 物質・材料系 教授/工学博士の梅田実氏が講演を行った。当初、宇宙船向けという特殊な用途から実用化が始まった燃料電池が、発電所用から車載用、家庭用へと、小型化が進み、現在ではIT分野・対人補助用途への活用が見込まれるまでに至ったと歴史を振り返る。
小型化が進んだことで、燃料電池は従来の電池と置き換わる存在になってきた。中でも、充電池の主流であるリチウムイオン充電池の販売数は、2000年から急速に伸びているが、公開される関連技術の特許数が激減していることから「技術的には煮詰まった。というか、枯れてきている状況。ひとたび燃料電池技術でブレイクスルーが起これば、完全に入れ替わるだろう」と述べた。
さらに、モバイル燃料電池用として主流となるのは、水素ではなくメタノールを使うDMFC(Direct Methanol Fuel Cell、メタノール直接型燃料電池)(2005年7月の記事参照)になると述べる。DMFCは「取り扱いが難しい水素ではなく、比較的手軽に扱えるメタノールを燃料にしている」「液体燃料を直接使用できることから、水素を使う場合に必要なポンプやタンクなどの補器が不要で小型化も容易」であることから、各地で研究開発され、関わる研究者が多い。技術的なブレイクスルーが起こる可能性が一番高いという見方だ。
DMFCは、燃料に水素を用いるPEFC(Polymer Electrolyte Fuel Cell、固体高分子形燃料電池)と比べると、水分が必要なことや理論上の起電力が低いという面がある。しかし、理論変換効率がPEFCは83パーセント、DMFCでは97パーセントと上回ることから、依然有利であると講演を締めくくった。
月に300万セットも売れているケータイ用の緊急充電器
続いて講演を行った東芝 ディスプレイ・部品材料統括 技師長の上野文雄氏は、ほとんどの携帯電話ユーザーが電池寿命に不満を持っているとし、「不満はないというユーザーに理由を聞くと、“予備のバッテリーを持っているから”という答えが多い。コンビニで販売しているケータイ用の緊急充電器があるが、月に300万セット以上が売れているという。年間では3600万セットになり、携帯電話契約数の半分近い数字になる」と、電池を巡る現状を解説した。
携帯電話の多機能化が進み、消費電力が増すことに対し上野氏は「省電力化や供給される電力量の増加を図ってきたが、電力に余裕があると機能を盛り込んでしまうし、リチウムイオン充電池の高容量化は頭打ちとなっている。充電が不要で、連続使用が可能な燃料電池は救世主」と期待を寄せる。
上野氏も、取り扱いが簡単なメタノールを用い、シンプルな構造で小型が容易なDMFC方式の燃料電池を注目していると述べた上で、充電池とのハイブリッド使用を解説した。「(携帯機器用に小型化した場合)DMFCは電流の増加に伴う電圧の低下が著しいという特性を持つ。反応が緩やかなため、液晶のバックライトを点灯させるなど、突然の電力需要に追いつかないことがありえる。しかし、出力が一定になるよう駆動させると効率的な発電が行えるため、充電器的な使い方に向くだろう。電力の使用状況からフィードバックを重ね、将来的に出力のピークを予測をすることはできるだろう。たが、充電池やキャパシタと組み合わせて補う『ハイブリッド化』を行うのが現実的だ」と述べた。
携帯電話は、通信や通話またワンセグ放送の視聴などで1~1.5ワットを消費する。現在のDMFC技術ではこの電力をまかなうことは難しい。
「ハイブリッド化」は、燃料電池とリチウムイオン充電池という性質の違う電源を併用し、就寝中など電力をあまり消費しない時間帯に燃料電池から充電を行い、起床後の通話やコンテンツ利用は充電池を使用するアイデアだ。
マイクロ燃料電池の国際標準は2007年後半に制定
講演では、燃料電池開発情報センター(FCDIC)の常任理事 事務局長である小関和雄氏による、燃料電池に関する国際標準化動向の報告も行われた。
「国際標準への対応は、競争を行う市場への参入資格。企業にとって自社技術が標準化した場合のメリットは計り知れず、いかに優れた技術であっても国際標準に合致しないと価値が低くなってしまう。近年では、特許出願と同時に国際標準への提案を行う事案が多い」と、技術を確立してからの事後標準から、確立前の事前標準が主流になっていると指摘する。
燃料電池の国際標準については、2000年にIEC(国際電気標準会議)を母体に専門委員会(IEC/TC105)が設立され、現在の議長国は日本であること、また、マイクロ燃料電池の「性能」と「互換性」に関するワークグループのリーダーについても日本であることを紹介した(2004年6月の記事参照)。「各国の認証機関、法務関係者、技術者が集まり活発な議論を重ねているが、日本がグループリーダーを務めるためイニシアティブを取りやすい状況にある」と述べた。
また、マイクロ燃料電池についての国際標準は、「安全性 型式試験」については2007年8月、「性能」と「互換性」については2007年12月に制定される見通しを明らかにした。
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