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ケータイデザインで今、なにが重要なのか――Kom&Co. 小牟田氏に聞く(前編)神尾寿のMobile+Views(2/2 ページ)

今や“デザインがいい”ことは、あたりまえともいえるようになった携帯電話。このトレンドの仕掛け人ともいえるのが、KDDI在籍時代に「au design project」を立ち上げた小牟田啓博氏だ。現在、ソフトバンクモバイル端末のデザインコンサルティングを担当する同氏は、ケータイデザインの役割や可能性が今、また変わり始めていると話す。

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 キャリア発想の携帯電話のカラーリングでは、「汚れにくい」や「傷が目立ちにくい」、「好き嫌いが分かれない」といった無難な選択に落ち着くことが多かった。しかし、小牟田氏はここにはっきりと主張するカラーの考え方を持ち込んだ。これにより当時のau端末が、店頭においてドコモやボーダフォン(現ソフトバンクモバイル)よりも“目を引きやすい”ものだったのは事実だろう。また、小牟田氏がキャリアの内側から「色と質感」にこだわったことは、メーカーの塗装技術の向上にスポットライトをあてて、それを促すきっかけにもなった。

 「カラーにこだわる一方で、(KDDI在籍)当時もうひとつ注力したのが、『デザインで突き抜けたケータイを作る』ことです。「INFOBAR」や「talby」など、au design projectの代表モデルはこれにあたります。

 デザインで突き抜けたモデルが登場することで、それを選んでいただく人たちもいる。反面、『あそこまで(のデザイン)は必要ないや』という人たちも現れるわけです。重要なのはまさにここで、当時、デザインの指標になるモデルを投入することで、デザインに対するポジショニングができた。(相対化して)自分にあったデザインというものを選びやすい環境を作ることができたんです」(小牟田氏)

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「デザインで突き抜けたケータイ」として市場に投入したau design projectの代表モデル。「INFOBAR」(左)と「talby」(右)

普遍性としての「スタンダード」

 KDDI在籍時代を通じて、小牟田氏はプロダクトデザインという座から問題提起や新たな挑戦を行い、携帯電話の進化に貢献しつづけた。携帯電話業界内でもデザインの注目度は高くなり、「今では、デザインがいいことはあたりまえになってきた」(小牟田氏)のだ。

 「デザインの重要性は確かにあがっているのですが、ではそれがバブル時代のようにデザインの高騰に繋がるかというと、そうではない。それは時代背景の違いとも言えます。

 では、その中で、2006年以降の“いま”大切なことは何かというと、『スタンダード』となりうるものです」(小牟田氏)

 これはプロダクトデザインに限らず、音楽や芸術などあらゆる文化が、多様性と普遍性のバランスで成り立っている。近代音楽におけるスタンダードナンバーのような、質が高くて定番になるようなデザインが、ケータイにもそろそろ必要であると小牟田氏は話す。

 「ちょっと興味深いのは、先ほどのカラー展開の部分を振り返りますと、PCの世界では(ケータイよりも)少し流れが速いことなんです。Appleが初代iMacで多色展開をしたのが、1999年。その後、iMacやiBook(現MacBook)はカラフルさを卒業して、より普遍的で質感の高いデザインに昇華していった。


質感の高いデザインへと進化したiMac

 au design projectや一部のハイエンドモデルのデザインがよくなっていくのは当然のこととして、多くの人が使う普通の端末の(デザインの)平均点を高くしていって、スタンダードのデザインをよくしていかないといけない」(小牟田氏)

 スタンダードの重要性が増した背景には、携帯電話市場そのものの変化もある。その最大の要因が、端末の2年間利用を前提にした新販売方式の導入だ。これにより、1つのケータイとつきあう時間は長くなり、デザインに対するユーザーの見方も変わってくる。

 「長く気楽に、飽きずに使える。スタンダードなデザインこそ重要で、そこでの軸はアーティスティックなものではなく、ユーザーに使ってもらうもの。au design projectの登場以降、ケータイデザインに対する評価軸の向上ができましたが、ここでもういちどボトムアップが必要なのではないかと考えています」(小牟田氏)

 では、スタンダードなデザインの条件とは何なのだろうか。その重要な要素として小牟田氏は、「シンプルであること」を第1に挙げる。

 「これはデザインの世界では古くから言われ続けていることですけれど、やはりシンプルであることが重要です。むろん、これは単純に複雑さを排するということではありません。練り込まれたシンプルでなければならない。ものすごく手数が入っているのだけれど、一見するとシンプルに見えるというのが、(スタンダードな)いいデザインと言えます」(小牟田氏)

 むろん、シンプルさの追求は外観デザインのみに留まらない。入力系のデバイスやGUIといった操作体系全般にまで及ぶ。そういった“シンプルで優れたデザイン”のスタンダードを構築することで、革新性や使いやすさの部分も底上げされていくのだ。

 「スタンダードを求める人たちというのは、実は自分の(ケータイの)使い方がよく分かっていて、個人の軸がしっかりしている人たちです。そういったユーザーには、ケータイのハードがいいだけでは(デザインのよさ)は伝わらない。GUIの部分でもユーザーの期待値に応えて、なおかつ(ハードウェアと)シームレスでなければならない。そういった総合力が重要なんです」(小牟田氏)

 後編では今年の夏商戦モデルを例として見ながら、スタンダードとデザインの今後について話を聞いていく。

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