「ドラクエ」関連アプリが快進撃、スマホはゲーム市場の“主役”となるのか?:佐野正弘のスマホビジネス文化論(1/2 ページ)
初代ドラクエを配信したスクエニのポータルアプリが350万ダウンロードを記録し、有料アプリ「ドラクエVIII」も異例の大ヒットとなった。スマホはゲーム市場の“主役”になるのだろうか。
350万ダウンロードを獲得した「ドラゴンクエストポータルアプリ」
2013年11月28日、スクウェア・エニックスは、スマートフォン向けに「ドラゴンクエストポータルアプリ」の配信を開始した。このアプリが短期間で350万という驚異的なダウンロード数を記録したことから、大きな話題となった。人気の理由は、このポータルアプリ上で「ドラゴンクエスト」(以下、ドラクエ)を無料配信したことにある。
「ドラゴンクエストポータルアプリ」は、「ドラゴンクエスト」を無料で配信したことで短期間のうちに350万ものダウンロード数を実現 (C)1986, 2013 ARMOR PROJECT/BIRD STUDIO/SPIKE CHUNSOFT/SQUARE ENIX All Rights
同タイトルはご存じの通り、国民的人気を誇るRPGシリーズの初代タイトルであり、ゲーム業界にとどまらない一大ブームをもたらしたことで知られている。そのドラクエのスマートフォン版は通常価格が500円なのだが、先着100万ダウンロード分は無料で提供されることになった。これが大きな話題となり、たった1日で100万ダウンロードに到達。スクウェア・エニックスは急遽、12月10日まで無料配信を延長する措置を実施した。結果、ダウンロード数が350万という、驚異的な数を記録することとなった訳だ。
しかもこのアプリは“ゲーム”ではなくあくまで“ポータル”であったことが、アプリマーケットにさらなる大きな影響をもたらした。というのも、スクウェア・エニックスは12月12日に「ドラゴンクエストVIII 空と海と大地と呪われし姫君」(以下、ドラクエVIII)をスマートフォン向けに配信したのだが、実は事前にポータルアプリを通じて、同タイトルの配信予告をプッシュ通知していたのだ。これがファンの関心を大幅に高めたことは間違いない。
ポータルアプリを通じて配信の予定が通知された「ドラゴンクエストVIII 空と海と大地と呪われし姫君」 (C)2004, 2013 ARMOR PROJECT/BIRD STUDIO/SQUARE ENIX All Rights Reserved.
結果、ドラゴンクエストVIIIはダウンロード課金で2800円と、アプリとして見れば非常に高額な価格設定にも関わらず、好調なダウンロードを記録。App Storeの売上ランキングにおいても、配信当初は「パズル&ドラゴンズ」に次ぐ2位を獲得したほか、半月ほど経過した執筆時点(2013年12月30日)でも15位を記録している。ダウンロード課金型のアプリとしては従来にないダウンロード数と高い売上を記録しているといえよう。
“ドラクエ”の配信はゲームメーカーが本腰を入れてきた証
スクウェア・エニックスはこれまでにも、スマートフォン向けゲームには積極的に取り組んでおり、「拡散性ミリオンアーサー」など人気タイトルを生み出しているほか、同社の看板タイトルの1つ「ファイナルファンタジー」(以下、FF)の過去シリーズを移植して配信するなど、多くの実績がある。だがFFに並ぶもう1つの看板タイトルのドラクエに関しては、「ドラゴンクエストモンスターズWANTED!」など派生タイトルを提供したことはあるものの、ナンバリングタイトルと呼ばれるシリーズ本編を配信したことはなかった。
そのシリーズ本編を、スマートフォン・タブレット向けに配信する方針を示したのが、2013年10月に開催された「CEATEC JAPAN 2013」である。この時同社はNTTドコモと提携し、ドコモのゲームサービス「dゲーム」にて「ドラゴンクエストX 五つの種族 オンライン」をドコモのタブレット「dtab」などに向け、クラウドゲームとして配信すると発表した。ドラゴンクエストの、しかもシリーズ最新作をスマートフォンやタブレットに向けて提供する方針が示されたことは、大きな驚きを持って迎えられた。
さらに10月8日には、スマートフォン向けに過去の全ドラクエシリーズを順次配信すると発表。11月28日のポータルアプリと初代ドラクエの提供を皮切りとして、今後ドラクエの過去シリーズ全作品を順次配信する予定だ。
もっとも、ドラクエシリーズをモバイル向けに配信すること自体は、過去にもあったことであり、それ自体は大きな驚きではない。実際スクウェア・エニックスは2004年に、ドラクエおよびFFの初代作品をドコモの3G携帯電話「900i」シリーズに向けて提供している。これにはドコモ側が3Gの携帯電話を普及させるべくキラーコンテンツを求めていたという事情もあったようで、“携帯電話でドラクエが遊べる”ことが大きな注目を集め、900iシリーズが人気を高める大きな要因の1つとなった。
その時と今回の取り組みが大きく異なるのは、ドラクエの過去作品だけでなく、最新作までもスマートフォンやタブレット向けに投入すると公表し、しかもすでに実現している点だ。これにはハードやネットワーク面の進化といった外部要因ではなく、ゲームメーカーがモバイルのゲームマーケットに対し、本腰を入れて取り組もうという“意思”が大きく影響している。
モバイルとコンシューマー機の間にあった大きな“壁”
ゲームメーカーがモバイル向けのゲームに力を入れる要因の1つには、市場の大きさが挙げられる。モバイルコンテンツ関連の業界団体であるモバイル・コンテンツ・フォーラム(MCF)の資料によると、フィーチャーフォン時代の「モバイルゲーム市場」は、最盛期の2009年ですでに884億円に達していた。さらに現在の主流となるスマートフォンの「ゲーム・ソーシャルゲーム等市場」を見ると、2012年時点で2607億円もの規模に達するなど、非常に大きな市場になっている。
だがモバイルのゲーム市場は、規模が大きいにも関わらず、既存のゲームメーカーからすると“入り込みにくい”市場であった。それゆえコンシューマー機とモバイルとのゲームの間には、長い間大きな“壁”が存在し、互いが独立した市場を構成していた。
そのことを象徴しているのが、モバイルのソーシャルゲームで人気を博したGREEが、2011年の東京ゲームショウに初出展した時だ。当時ネット上では、GREEのブース展開や講演内容に対する批判が巻き起こり、コンシューマーゲームが主体のゲームショウにおいて、モバイル、特にソーシャルゲームが“異質なもの”として受け止められていたことを浮き彫りにした。その翌年に起きた、いわゆる“コンプガチャ騒動”においても、やはりコンシューマーゲームの支持層などから、GREEなどモバイル向けのソーシャルゲームを提供する事業者に対する批判が一斉に噴出したことも、記憶に新しい。
しかしなぜ、同じゲームでありながら、モバイルとコンシューマーゲーム機との間に大きな壁ができてしまったのだろうか。それには、モバイルとコンシューマーゲームとでは、ハードからビジネススタイル、さらにそれを好んでプレイする人達に至るまで、取り巻く環境が全くといっていい程異なっていたことが影響している。
コンシューマーゲームでは、ゲームを好きな人が専用のハードを購入し、じっくり楽しむことを前提として作られたタイトルをプレイして楽しむ。それゆえプレイヤーの裾野は広くないものの、まとまった金額のゲームパッケージを購入してくれることでビジネスが成り立つ。だがモバイルの場合、ちょっとした時間つぶしをしたい人などが、手持ちの携帯電話で気軽に遊べるものが人気を得る。そのためプレイヤーの裾野は広いものの、ゲームを始める段階で料金を支払うことに対するハードルは高く、広告やアイテム課金によるビジネスが主体となる。
ゆえに両者は、人気を得るゲームの作り方も相当違っていた。細部にまで作り込みに注力するコンシューマーゲームに比べ、考えられないくらいシンプルな内容のゲームがモバイルでは絶大な支持を得てヒットすることも少なくなかった。こうした背景もあり、従来コンシューマーゲーム機の開発者はモバイルのゲーム開発にはあまり携わりたがらず苦手意識を持っていたし、そのことがソーシャルゲームを中心に、モバイルを専門に手掛ける新興ベンダーの勢いを伸ばす要因にもなっていた。
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