山小屋にも快適な通信環境を――「富士山 Wi-Fi」実現の舞台裏(1/2 ページ)
通信3キャリアは富士山の開山期間にLTEネットワークを提供しているが、訪日外国人はなかなか恩恵を受けられない。そこで2016年に提供されたのが、山小屋を含む49カ所をカバーする無料の「富士山 Wi-Fi」。このWi-Fiスポットが実現した舞台裏を聞いた。
富士山が2013年に世界遺産に登録されてから、外国人観光客がさらに増加するようになった。その際にネックとなるのが「通信手段」だ。NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの3キャリアはここ数年、富士山の開山期間にモバイルネットワークを解放し、日本のユーザーは富士山でもある程度自由に通信できるようになった。しかし3キャリアとの契約を持たない訪日外国人は、富士山の登山中に通信できないケースが多い。
そこで2016年は、山梨県と静岡県が主導となって、富士山の山小屋にWi-Fiスポットを設置するプロジェクトがスタートした。いくつかの事業者が応募をした結果、ワイヤ・アンド・ワイヤレス(以下、Wi2)のサービスが、「富士山 Wi-Fi」として採用された。
7月10日から9月10日まで運用された富士山 Wi-Fiは、富士山の全山小屋含む49カ所と、富士山静岡空港(1F総合案内所)にWi-Fiスポットを設置し、日・英・中(簡体字・繁体字)・韓・タイの6言語に対応。大規模災害発生時の統一ネットワーク「00000JAPAN」としても利用できる。
Wi2は富士山 Wi-Fiを運用するにあたって、どのような工夫を施したのか。富士山 Wi-Fiの運用を担当したWi2 技術運用本部 本部長補佐の橋本正則氏と、富士山 Wi-Fiで使用するアクセスポイントのメーカーである、ラッカスワイヤレスジャパン(以下、ラッカス) テクニカルディレクターの小宮博美氏に話を聞いた。
バックボーンにはKDDIのLTE回線を使用
街中でよく見かけるWi-Fiスポットは、固定回線をバックボーンにしたものが多いが、富士山 Wi-Fiでは、主にKDDIのLTE回線を使用している。つまり登山道も山小屋も、おおもとのネットワークは変わらない。
富士山 Wi-Fiは、LTEの電波を受ける「ルーター」、そのルーターと有線接続してWi-Fiの電波を吹く「アクセスポイント」の2つで構成されている。このルーターとアクセスポイント1台ずつを収納した箱を、それぞれの山小屋に設置してサービスを実現している。
LTEの基地局から直接電波を受けられる登山道と、Wi-Fiで電波を受ける山小屋で、通信品質に差は出るのだろうか。橋本氏は「Wi-Fiでも品質が劣化することはありません」と話す。
「山小屋の中は障害物で覆われているので、LTEの電波は外よりも弱くなります。富士山 Wi-Fiの機器はLTEの電波を受けやすい窓際に置いているので、屋内でも場所によってWi-Fiの方がスループットが出ることはあります」と橋本氏。2015年まではWi-Fiスポットはなかったので、基地局から吹くLTEの電波に頼るしかなかったが、屋内では速度が出にくくなる。Wi-Fiスポットならこれを解消できるというわけだ。アクセスポイントは高い場所に設置しているため、離れた場所にいても、それほど速度が落ちることはないそうだ。
実際に橋本氏が富士山の山小屋で、アクセスポイントの近くと遠くで通信速度を測ったところ、場所によっては下り30Mbpsほど出たという。日本のユーザーなら外はLTE、中もWi-Fiで快適な通信環境を構築できるが、訪日外国人も山小屋の中なら、スマホを持っていれば誰でも高速通信の恩恵を受けられるようになった。
KDDIとも密接に連携をした。LTEの電波が弱いところについては、KDDIにLTEの波を増幅するレピーターを設置してもらうよう調整したほか、基地局単位でLTEネットワークを増強した場所もあったという。「各小屋にヒアリングをして、電波の入りにくいところをピックアップしました。その後KDDIが増強し、翌日に弊社がWi-Fiを設置しています」(橋本氏)
特に大変だったのがスケジュールだという。「富士山の開山日は山梨県が7月1日、静岡県が7月10日ですが、山小屋はその直前しか開かなかったり、開山日の後しばらくしないと開かなかったりしたところもありました」と橋本氏が話すように、限られた日程の中にルーターとアクセスポイントを設置するのが苦労したようだ。
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