世界の決済事情から考える「日本でモバイル決済が普及しない理由」:鈴木淳也のモバイル決済業界地図(3/3 ページ)
日本ではスマートフォンを使ったモバイル決済の認知度は高いものの、利用率は低い状況が続いている。一方中国では、日本とは対照的に、AlipayやWeChat Payが急速に市民権得ている。今回は、日本を含む世界の決済事情について読み解いていく。
日本国内でなぜモバイル決済が進まないのか、その対策は?
世界の決済事情が見えてきたところで、話を冒頭の日本のモバイル決済事情へと戻そう。Apple Payがそうであるように、欧米豪のキャッシュレス化やモバイル対応は基本的に既存カードインフラの活用を前提としている。香港やシンガポールなど、アジア圏でも比較的インフラ投資が行き届いている国についても、基本的にはこの欧米豪に近いアプローチを実践している。
逆に、既存のカードインフラ(銀聯)の活用を目指した中国版Apple Payは、その利用がQRコード決済ほどには拡大していない。これは銀聯の非接触決済であるQuickPassの普及率がそこまで高くないこと、QuickPassが使えるような店舗では既にAlipayやWeChat Payが使えるようになっているケースが多く、サービスの利便性を考えればあえてApple Payを利用する必要はないということも大きいのかもしれない。
日本国内でおサイフケータイの利用が10%台、あるいはその前後の水準で足踏みしているのは冒頭にもある通りだ。2016年10月にはApple Payが日本に上陸し、国内スマートフォンシェアの半数以上を占めるというiPhoneの増加でおサイフケータイ対応携帯が減少しているという「インフラ活用面」での悩みは解消したものの、Apple Pay上陸後もモバイル活用率は大きく跳ねた印象はない。
ただJCBによれば、Apple Pay上陸後にQUICPayの利用は急増しており、カード発行枚数そのものにも大きな影響を及ぼしていることを認めている。QUICPayのもともとの利用率が少なかったことの証左でもあるが、少なくとも業界地図に影響を及ぼしつつあることは確実だ。日本はApple Payにおいて交通系電子マネーやその他のFeliCa系非接触カード決済に対応するという特殊仕様になっているが、この取り組みが中国におけるApple Payの惨状とは異なる状況を生み出したともいえる。
ではなぜ、日本ではおサイフケータイやApple Payを活用できるインフラが整備されているにもかかわらず、利用状況の改善がみられないのか。MMD研究所の調査報告にもあるように、既に認知度が高く、小銭を使わなくてもいいという利便性が理解されているものの、セキュリティ的な不安を抱えているユーザーが多いことが示されている。
ただ、モバイルで発生するセキュリティ的なトラブルはリリースから時間を経て改善される場合が多いことと、盗難時や紛失時などにリモートでカード情報等を削除できるため、その意味では一度提供されたら次の更新時期までハードウェア的な変更が行われない物理カードの方が対処が難しいともいえる。
かつてカード会社がモバイル対応にあまり積極的でなかった頃、その理由としていわれていたのが「モバイルではセキュアエレメントへの書き込み処理を含めた対応を携帯キャリアやメーカーに委ねなければいけない」ということで、セキュリティ的に安全性を担保できないというものだった。だが現在、Apple Payのような仕組みが登場し、多くのカード会社がこのインフラに乗っている以上、そうした部分の懸念は少ないと考えるのが妥当だ。むしろ「やり方が分からず面倒」「積極的にモバイルで使う理由がない」という部分のが大きいのではないかと考える。
さて、中国を含む途上国でのモバイル決済に関するユースケースは重要なことを示唆している。向上した利便性が既存の商習慣を変化させたという点だ。北欧でも同様にキャッシュレス化がここ最近で特に進展したが、その背景には「スマートフォン普及率の高さ」「国土に人口が偏在することによる都市部での人口カバー率の高さ」「特定のテクノロジーにこだわらずに利便性を優先する」といった分析が行われている。
これにより、例えばデンマークでモバイル決済サービスのMobilePayが過去数年ほどで一気に広がるなど、市民権を獲得している。中国のAlipayやWeChat PayといったQRコード決済や個人間送金サービスの利用はスマートフォンが必須のため、物理カードではなくモバイル端末での決済が中心になっているという事情がある。現状のサービススタイルのままで日本のモバイル決済が大きく進展することはなく、より便利なサービス(例えばモバイルを使った個人間送金や決済機能を含んだキラーアプリ)の登場が必要ではないだろうか。
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