世界の決済事情から考える「日本でモバイル決済が普及しない理由」:鈴木淳也のモバイル決済業界地図(2/3 ページ)
日本ではスマートフォンを使ったモバイル決済の認知度は高いものの、利用率は低い状況が続いている。一方中国では、日本とは対照的に、AlipayやWeChat Payが急速に市民権得ている。今回は、日本を含む世界の決済事情について読み解いていく。
途上国で急速にキャッシュレス化が進んでいる理由
日本は成人の銀行口座保有率がほぼ100%近くと先進国でもトップクラスに位置する一方で、前段の説明にもあるようにカード決済を含む電子決済比率が低い。少額決済ではいまだに現金が大きな割合を占めている他、請求書による口座振替や現金での振り込み、代引きなど、間接的でも現金や書面でのやりとりが多く発生している。慣習的なもので、この意識が小売店(企業)や利用者ともに変化していないのがキャッシュレス化が進まない原因でもあるが、逆にインフラが後期に整備された国ほど大胆な施策が実行可能で、国民の新しい決済や送金手段に抵抗がないのかもしれない。
代表的なものがインドだ。同国はもともと2010年代に入るまでは「アンバンクト(Unbanked)」と呼ばれる地域で、成人の銀行口座保有率が5割に満たない状態だった。2014年にNarendra Modi氏が首相に就任すると、さまざまな施策を講じてこの状況を変えていった。2014年時点で銀行口座保有率は5割に達していたようだが、銀行のサービス窓口が都市部に偏っているなど使いにくく、その半分ほどは使われていない休眠口座だったといわれている。
そこで2016年に強行策として500ルピーと1000ルピーの高額紙幣廃止を発表し、国民から現金の引きはがしにかかった。両紙幣合わせて紙幣流通額にして86%に相当するもので、この施策は当然ながらインド国内に大混乱を引き起こしたが、一方で手持ちの現金が無価値になるのを避けるべく、人々は銀行の利用に向かった。結果として、銀行口座の世帯普及率は100%近くにまで急上昇し、休眠口座も激減したという。
また、中国のAlipayやWeChat Payほどではないものの、スマートフォンやフィーチャーフォンを使ったアプリ決済サービスである「Paytm」などの普及も進んでいる。まだプロモーション的な要素が強いためアクティブユーザー数の正確な広がりはつかめていないが、Paytmによれば2017年初時点でWalletサービスは2億ユーザーに達しており、2018年内には全人口の1〜2割程度をカバーすることになるとみられる。現在AlipayとWeChat Payの人口カバー率が3〜4割程度だということを考えれば、今後数年でインドもまた近い水準に達する可能性がある。
インドや中国に限らず、アンバンクトな国々では全体にモバイル決済サービスが国の金融事情をけん引している傾向が強い。インドの例にあるように国土に対して金融サービスを提供可能な銀行支店の数が少なく、サービスそのものの使い勝手が悪いためだ。そこで、先に普及している携帯電話インフラを活用し、SMSなどのショートメッセージサービスを使った送金や支払い、キャッシングを可能にする仕組みが登場し、これが国のキャッシュレス化を推進している。
代表的なものはアフリカのケニアなどで展開されている「M-Pesa(エムペサ)」だが、同様のサービスはアフリカやアジアの他地域でもみられる。Safaricomといった携帯キャリアがサービスを提供している点が特徴で、オフラインでのやりとりが必要となる現金の引き出しや預け入れについては、M-Pesaと提携している各地域の商店を通じて行えるため、少ない銀行支店をやりくりするよりも利便性が高いというメリットがある。サービスはフィーチャーフォンでも利用可能なように工夫されているが、今後こうした地域でもスマートフォンの普及が進むことを考えれば、より高度なモバイルバンキングサービスが登場する可能性も十分に考えられる。
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