「通信の最適化」とは何か? MVNOにとって福音となるのか?:MVNOの深イイ話(3/3 ページ)
今回のテーマは、昨今、大手MVNOが導入したことで再び話題となっている「通信の最適化」です。通信の最適化とは何で、何を最適にすることなのでしょうか? そしてMVNOにとってどのような意味を持つのでしょうか?
「通信の最適化」はMVNOの福音になるか?
最後に、「通信の最適化」がMVNOのビジネスに与える影響について、筆者の考えを述べておきます。過去の連載で述べた通り、MVNOにとってはMNO設備と自らの設備を結ぶ接続回線がボトルネックとなります。仮に、お客さまのトラフィック量がこの接続回線のキャパシティーを上回れば、輻輳(ふくそう:ネットワークの混雑)が発生し、通信品質は急激に低下します。
もし「通信の最適化」によりトラフィックを少なくすることができれば、輻輳の程度を抑えることができ、投資なく通信品質を向上させることができるでしょう。これはMVNOにとりメリットであるかもしれません。
しかし、筆者は必ずしもこの考え方には同意しません。翻って歴史を見れば、冒頭に説明した通り、「通信の最適化」は2000年代にP2Pアプリケーションへの帯域制御として登場した技術の系譜です。当時のインターネット利用は固定回線、すなわちADSLやFTTH(光ファイバー)がメインでした。
この当時、膨大なトラフィックを生み出すP2Pアプリケーションは電気通信事業者の頭痛の種でした。なぜなら、当時のADSL、FTTHは使い放題が基本であったため、膨大なトラフィックを生み出すP2Pアプリケーションの利用者は、設備負荷を与えつつも収入面では他の利用者と変わりません。P2Pアプリケーションの利用者が増え続けると、収入が変わらないまま、設備投資を増やさなければならなくなり、電気通信事業者の収益が悪化していってしまうのです。
もし、ADSLやFTTHが従量制料金プランで提供されていたら、P2Pアプリケーションは、法的あるいはセキュリティ的な問題はさておき、少なくともビジネス面では電気通信事業者の頭痛の種になることはなかったでしょう。仮に利用者がP2Pアプリケーションで大量のデータをやりとりすれば、その分電気通信事業者への支払いが増えるのですから、電気通信事業者はその収入で設備をより増強することが可能だったはずです(もちろん利用者の支払い能力には一般に限界がありますから、そのような大量のデータやりとりそのものが抑制される可能性も高いですが)。
時代が変わり帯域制御が「通信の最適化」となっても状況は同じだと考えられます。MVNOの料金プランが使い放題であれば、「通信の最適化」は2000年代の帯域制御と同様に、MVNOにとり福音となるのかもしれません。しかし、現在のMVNOの多くは、使い放題プランではなく定量制の料金プラン(月3GBなど)を提供しています。大量のトラフィックが動画や画像によって生み出されるのであれば、その分収入を上げる(利用者がより上位の料金プランに移行する)ことが可能であり、その収入を接続回線の増強に使うことができるはずです。
逆に「通信の最適化」が十分に効果を上げ、利用者のトラフィックを少なくすることに成功したとすると、その分、MVNOが手にできるはずだった収入が消えるわけですから、設備増強に回す原資がなくなります。それもMVNOにとり1つの平衡点かもしれません。しかし画像や動画の劣化によってユーザーがストレスを感じたら、マイナスだといえます。
これまで、電気通信事業者は(災害時など突発的事態を除けば)利用者の通信の利用を促進し、収入を高め、設備投資をすることで事業を拡大してきました。近年の数少ない例外が、2000年代に生じたP2Pアプリケーションに対する帯域制御、そして現在いくつかのMNO、MVNOが導入している「通信の最適化」です。2000年代のP2Pアプリケーションの帯域制御は、使い放題料金プランという背景から理由付けができます。「通信の最適化」が果たして正しい路線なのか、非常に興味深い社会実験が始まったといえます。
著者プロフィール
佐々木 太志
株式会社インターネットイニシアティブ(IIJ) ネットワーク本部 技術企画室 担当課長
2000年IIJ入社、以来ネットワークサービスの運用、開発、企画に従事。特に2007年にIIJのMVNO事業の立ち上げに参加し、以来法人向け、個人向けMVNOサービスを主に担当する。またIIJmioの公式Twitterアカウント@iijmioの中の人でもある。
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