「141g」の軽さを実現できた秘密とは? “細マッチョ”なスマホ「AQUOS zero2」開発ストーリー(1/3 ページ)
シャープのスマートフォン「AQUOS zero2」は、6.4型ディスプレイや3000mAh超のバッテリーを搭載しながら、141gという軽さを実現した。有機ELディスプレイも改良し、“勝てるスマホ”としてタッチレスポンスも向上させた。さらなる軽量化と見やすいディスプレイ、ハイパフォーマンスを実現できた理由を開発陣に聞いた。
シャープ製のフラグシップスマートフォン「AQUOS zero2」が発売された。2018年12月に発売された初代「AQUOS zero」は軽さとハイパフォーマンスの両立を目指して世界最軽量(画面サイズが6型以上で、バッテリー容量が3000mAhを超える防水対応のスマホにおいて)の146gを実現したが、zero2はそれよりもさらに軽い141g。“世界最軽量”を更新した。
軽量なので長時間使っていても疲れにくく、有機ELディスプレイは動きの激しい映像もくっきりと表示、独自の放熱設計で持続するハイパフォーマンスを実現していることから、ゲームに最適な「ゲーム系フラグシップ」スマホとして打ち出している。
AQUOS zero2はなぜゲームにフィーチャーしたのか。さらなる軽量化と見やすいディスプレイ、ハイパフォーマンスを実現できた理由を、通信事業本部 パーソナル通信事業部 商品企画部 担当部長の楠田晃嗣氏、商品企画部主任の篠宮大樹氏、システム開発部課長の田邊弘樹氏にうかがった。
ゲーマーたちに最も評価された「軽さ」
もともと、初代のAQUOS zeroは、軽さとハイパフォーマンスの両立に特化したモデルとして企画された。シャープのスマホには、他にAQUOS Rシリーズという王道のフラグシップがあるが、「王道モデルは要求されるスペックがある程度決まっていて、なかなか新しいチャレンジができません。軽いモデルで挑戦したいという思いがずっとありました」と楠田氏は話す。
スマホのヘビーユーザーは長時間使うからスマホは軽くあるべきなのに、ヘビーユーザーはスペックを重視するので重い端末を選ぶ。その矛盾を解消すべく、動画やゲームなどに特化したエンタメガジェットとして初代のzeroを投入。若い世代にアピールするためRシリーズとは異なるプロモーションを展開し、ゲームのイベントに協賛することになった。
ただ、ゲーマーにとって、スマートフォンAQUOSの知名度は思いのほか低かったようだ。「ゲーマーの方たちはほとんどiPhoneを使っています。『シャープにAQUOSっていうスマホがあったんだ』みたいな感覚があるくらいです(苦笑)」(楠田氏)
イベント会場でzeroを試用してもらい、感想をアンケート形式で聞いたところ、最も評価するポイントに軽さが挙がった。「われわれも軽さは好評だろうとは予想していたのですが、最も評価されるとは思っていませんでした」(楠田氏)
この結果から、軽さはゲームと相性がいいということを実感。zero2は、よりゲームを意識した形で開発を進めることになった。
ターゲットは「エンジョイ層」だ。従来、スマホのゲームは暇つぶしのためにパズルゲームなどを隙間時間に楽しむ「ライト層」が中心だったが、eスポーツの高まりにより、スマホでもPCゲームのような本格的なゲームを真剣にプレイする「ガチ層」も出てきた。zero2が狙うのは、ライト層とガチ層の中間だ。
「課金をするほどゲームを楽しむけれど、かといってスコアだけにとらわれず、周りの人とコミュニケーションも楽しむ人。得点やアイテムの獲得をSNSでシェアしながら楽しむような人をエンジョイ層と捉えています。コミュニケーションしながらゲームを楽しむにはスマホの方が発信しやすい。こういった背景もあってモバイルのゲームが増え、エンジョイ層も増えているのではないかと分析しました」(楠田氏)
zero2は「ゲーム系フラグシップスマホ」であり、ゲームに特化したゲーミングスマホとは異なるという。
「やはりスマホはスマホであって、電話やSNS、ブラウザといった一般的な使い方をして、さらにゲームを楽しむものです。zero2は一見、薄くて軽くてスタイリッシュで、中身がそんなにすごそうには見えないんですが、ゲームにこだわったパフォーマンスが詰まっている。開発チームでは、ゲーミングスマホを『ゴリマッチョ』、zero2は『細マッチョ』と呼んで、脱いだらすごいんです、というコンセプトでやっていこうと考えました」(楠田氏)
そうすることで、初代zeroのイメージを継承しながら、よりゲームにフォーカスした形でzero2を作っていくことができたという。
軽さの秘密は「基板」にあり
AQUOS zero2は、どのように141gという軽さを実現したのか。しかも、2019年9月にシャープが発表会を開催したときは約143gだったのが、さらに2g減って141gになり、改めてプレスリリースを出したほどだ。「軽くなったという事実だけをリリースしたのは弊社としても初めてのことでしたが、それだけ社内でもzero2にとって軽さが重要だと考えているからです。開発陣の頭の中にも、常に『軽さ』という言葉がありました」(篠宮氏)
「軽さは普遍的な価値。軽ければ軽いほどいい」が、150gという目安の数値はある。「一般的な文庫本の重さです。本は長時間読みますので、それより軽い、150g以下にすることが最低基準でした」(楠田氏)
150gの目安はあるが、実際には初代zeroの146gを最低限の目標として据えていた。初代zeroはディスプレイが6.2型でアウトカメラは1眼。当時は軽さにこだわったのでスペックも絞り込んだが、zero2はスマホのトレンドを盛り込み、カメラは2眼、ディスプレイは6.4型に大型化した。
ディスプレイが大きくなると、本体の全ての部品もそれに合わせて大きくなるので重さも増える。篠宮氏は「内心、146gを達成できないのではないかと危ぶんでいた」という。しかし、開発中の計測で143gという数値が出た。そのときは開発陣に激震が走ったという。最終的には141gと初代zeroよりも軽くなった。
ディスプレイはバックライトが不要なので軽くできる有機EL、側面のフレームは軽量で強いマグネシウム合金と、使っている素材は基本的に初代と同じだ。カラーバリエーションを増やすために、背面パネルをアラミド繊維から樹脂に変更したが、重量はほぼ変わらないという。では、なぜ軽くできたかというと、内部の重量が軽くなったためだ。
「基板がzero2では小さくなりました。これによって基板の重量が24~25%軽量化しています。基板は重いんです。そこを絞り込みました」(篠宮氏)
【訂正:2020年2月14日12時29分 初出時に、「本体の重量が24~25%軽量化している」旨の記述をしていましたが、正しくは「基板の重量が24~25%軽量化している」です。おわびして訂正致します】
基板を小さくすることで、発表会で公表した143gを実現した。残り2gに関しては、「明確に『これです』と出せるものではありません。地道な積み重ねというのが本音」(篠宮氏)だという。
軽くするために強度は犠牲にできない。zero2も強度を確保しながら軽量化している。
「使う上で本当に必要な強度と不要な強度があります。部品や機構、厚みに関して、必要かどうかを地道に調べて評価し、本当に必要なところだけを残し、不要なものは削除するということを、ずっと繰り返していました。その積み重ねでマイナス2gが実現できています」と説明した篠宮氏は、この地味な作業が一番大変だったと振り返っていた。
軽量化にはもちろん、初代zeroでの知見がある。軽量化の技術は「他社には簡単にマネできるものではないと思う」(篠宮氏)と胸を張った。
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