インタビュー

なぜau回線のみ? eSIMへの応用は? IIJに聞く「従量制プラン」の狙いMVNOに聞く(1/2 ページ)

IIJが、モバイル通信サービス「IIJmio」で「従量制プラン」の提供を開始した。あらかじめ、3GBや6GBの容量を決めて契約する定額プランとは違い、毎月の料金が変動するのが特徴だ。モバイル業界全体を見ると、自社で設備を持つMNOは、大容量プランや無制限プランを相次いで導入している。そんな中でなぜ従量制プランの提供に踏み切ったのか。

 IIJは、8月20日に「従量制プラン」の提供を開始した。これはその名の通り、使った分だけ料金がかかるプランのこと。あらかじめ、3GBなり6GBなりの容量を決めて契約する定額プランとは違い、毎月の料金が変動するのが特徴だ。とはいえ、最初の1GBは定額で、SMS付きのデータ通信料が月額480円(税別、以下同)。音声通話対応の場合は700円高い1180円となる。1GBを超えると220円料金が上がり、2GB以降は1GBごとに200円で利用できる。


月額480円から利用できるIIJmioの「従量制プラン」

 従量制だが、最大3回線までの容量シェアに対応。最大で20GBまで利用できるが、使いすぎを防止するため、上限を自ら設定することも可能だ。ただし、従量プランは、au回線を使う「タイプA」限定。ドコモ回線の「タイプD」には非対応となる。

 一方で、モバイル業界全体を見ると、自社で設備を持つMNOは、大容量プランや無制限プランを相次いで導入している。サブブランドも、データ通信の容量を増やしたり、容量超過後の速度を向上させたりしている。IIJが、その真逆を行くような従量制プランを導入したのはなぜか。IIJの執行役員 MVNO事業部長の矢吹重雄氏と、MVNO事業部コンシューマサービス部長の亀井正浩氏にお話を聞いた。

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「エコプラン」改定という側面があった

―― 「従量制プラン」は、プラン名も直球というか、中身そのままですが(笑)、なぜ「従量」にフォーカスしたのでしょうか。まずは、その背景をお話しください。

亀井氏 私たちも自身も出社率を下げて(リモートワークをして)いますが、新型コロナウイルス感染症が拡大し、外出自粛が広がった結果、家庭でのネット利用が増え、固定ブロードバンド側(の担当)が悲鳴を上げていました。一方で、モバイルはどうなのかというと、トラフィックが落ち込んでいました。

 また、これまでもIIJmio meetingやそれ以外の場でユーザーから、「3GB以下のプランはないのか」という声をいただいていました。今がまさにそのときだということで、今回のプランを導入しています。もともと、au回線には前身となる「エコプラン」(3GBと7GBのプランで、容量が余ったら値引きするという仕組み)があったので、それを作り直してみようとなりました。


MVNO事業部コンシューマサービス部長の亀井正浩氏

―― なるほど。エコプランの改定という側面があったんですね。

亀井氏 はい。エコプランにも、従量制プランと似たようなところがありました。ただ、今ではソフトバンクさんも「勝手に値引き」とやっていますが、投入は時期尚早だったのかもしれません。データ通信量が積み上がっていくというのは、外出するかしないか分からない状況にマッチするかもしれない。そう思い、従量制プランを始めています。

矢吹氏 もともとIIJmioは、128kbpsでバンドルクーポンなしというところからスタートしているので、ある意味原点回帰です。エコプランはあまりヒットしませんでしたが(笑)、その仕組みは一部流用して展開しています。ただ、その流用もあって、通常だとビックカメラさんと一緒に「BIC SIM」でも展開しますが、今回はまだオンラインだけです。年内をめどに、店舗へも展開したいと考えているところです。


従来も、使ったデータ容量に応じて料金が変動する「エコプラン」を提供していたが、変動する容量の単位や上限が異なる

―― 従量というとeSIMも1GB単位で追加していく料金体系になっていますが、あちらも参考にしたのでしょうか。

亀井氏 eSIMの「データプラン ゼロ」は、セカンド回線狙いで、「空いているeSIMを使いませんか?」という提案です。今回の従量制プランとリンクしているかというと、必ずしもそうではありません。新しい市場に、まずは「こういう商品はどうですか」と問いかけるため、今までのように考え過ぎず、出していくことにしました。

タイプDで従量制プランを提供する可能性は?

―― 料金体系が従来のプランと全く異なりますが、今までの主要3プランと並べて展開していくのでしょうか。それとも、eSIMのように特別なプランという位置付けですか。

矢吹氏 メインの料金プランはメインの料金プランで、どこかのタイミングでテコ入れしなければいけないと考えていますが、今回はどちらかと言うと、メインの料金プランの横にあるプランという位置付けです。コロナでのトラフィックを見て需要がありそうだったので、以前からいただいていた「3GBもいらない」という声を反映しつつ、開発速度を重視してリリースしました。

―― 従量プランはタイプA限定ですが、タイプDでやる可能性もあるのでしょうか。

矢吹氏 可能性はあります。ただ、先ほど種明かししたように、従量プランはエコプランを改修したものだったので、auの方がシステム的に楽だったという事情があります。また、将来原価方式(予測に基づいた将来の接続料も合わせて開示する方式)の導入で、KDDIさんの接続料が下がったことも1つの要因です。接続料の見通しがついたので、au回線の方が積極的に先行投資しやすい状況になりました。ただ、ふたを開けてみて、予測された原価が正解だったかどうかを見ないと、赤字になってしまうといったことも起きかねません。その見通しの確実性が高いことが分かってくれば、もっと安いものを展開していくことが可能になります。


執行役員 MVNO事業部長の矢吹重雄氏

―― 1GBあたり200円と安いのも、そのためでしょうか。

亀井氏 3GBで900円は変えていませんが、スタートの1GBでは、最安値にしていきたいと考えました。それを踏まえると、1GBあたり200円でいける計算になっています。今回の従量制プランには繰り越しがありませんが、それがなければ何とかこの金額に収められる……そういった今までの利用動向を見て、いけると判断しました。

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