コラム

政府が進める「携帯電話料金値下げ」 販売スタッフの“本音”に迫る元ベテラン店員が教える「そこんとこ」(2/2 ページ)

菅義偉首相と武田良太総務大臣が主導する形で、携帯電話料金の値下げへの機運が高まっています。果たして、携帯電話販売に携わるスタッフにとって、この値下げは「恩恵」となるのでしょうか。それとも……。本音を聞いてみました。

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携帯電話料金が高く見える原因は「端末代金」にある

 政府が携帯電話料金の値下げを強力に求める背景として、消費者からの「携帯電話料金が高い」という旨の声があります。しかし、販売スタッフから話を聞く限り、実際に「携帯電話料金が高い」と相談してくる人は想像以上に少ないようです。

 では、実際に寄せられた「料金が高い」という相談の“中身”とはどのようなものなのでしょうか。もう少し詳しく話を聞いてみると……。

 もちろん、「料金が高い!」と熱を持って来店されるお客さまもいらっしゃいます。ただ、先に言った通り、実際の料金を精査すると料金プラン“以外”の部分に原因があることも少なくありません

 先に料金プランが原因である場合の話をしておきましょう。新規受付を終了した旧プランを使っているお客さまに多いのですが、プランのデータ容量設定が自分の使い方に合っていないというケースがあります。この場合は容量の大きな新しいプランに変えていただくことで、追加データ量の購入も無くなるか少なくなり、結果的に料金が安くなります。通信容量の超過による速度制限を受けにくくなるので、とても喜ばれます。

 しかし、最近「高い」という相談を受けるケースのほとんどは、端末代金が高いことに原因があります。政府の取り組みやキャリア間の競争もあって、通信料金自体は以前よりも安くなる傾向にあります。しかし、特にハイエンド端末の代金は以前と比べると高くなりました。結果として、端末代金を合算すると月々の支払いは変わらないか、むしろ増えてしまっているのです。

 去年(2019年)9月までは何らかの形で端末代金を値下げするという対応もできましたが、10月以降は乗り換え(MNP)であっても端末代金の値引きが最大で2万円に規制されるようになりました。結果として、最新のiPhoneを含む最新機種では、24回払いにしても代金が1カ月5000円を超えてしまいます。これでは、いくら通信料金が安くなっても割安感なんて感じられません……。

 「であれば、分割払いの回数を36回とか48回にすればいいのでは?」「残価設定をして24カ月間は負担を少なくしているキャリアもあるよ?」と思う人もいるでしょうが、元の代金が高額なので、分割回数を増やしたとしても、毎月それなりの金額が“上乗せ”されます。「安い端末を買えば?」と考える人もいるかもしれませんが、今まで使っていたスマホとてんびんに掛けると、こちらから提案したとしても、進んで安い方に行くという選択肢を取るお客さまは思っている以上に少ないんですよ……。

 要するに通信料と合算された端末代金こそが、料金が高く見えてしまう原因だというのです。キャリアショップ、大手家電量販店や併売店(複数キャリアを取り扱う販売店)など、個々人の勤め先を問わず、異口同音に同趣旨の話が出てきました。

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 税別で3~4万円台の安価なスマホが「売れ筋モデル」として販売ランキングの上位に出てくることも増えてきました。しかし、日本の携帯電話市場では一番の繁忙期が新型iPhoneの発売時期です。Androidスマホについても、「Galaxy」「Xperia」といった強力なブランドではハイエンド機種への人気は衰えていません。

 このままでは、通信料金をいくら値下げしても「携帯電話料金が高い!」という声が続いてしまうのは目に見えています。


日本で人気を集めるiPhone。最新モデルで一番安い「iPhone 12 mini」の64GBモデルでも、各キャリアのWeb販売価格は税込みで9万円前後と、かつてのハイエンド端末よりも高い(画像はNTTドコモ「ドコモオンラインショップ」における価格)

 上記のコメントを寄せてくれたスタッフは、こう続けます。

 一部の人が言う「以前のように端末を割り引かないで、その分で通信料金を下げろ」という意見もよく理解できます。しかし、その“反動”で端末価格が高くなる傾向にあります。

 ハイエンド端末は元々、性能が高く数年間は現役で使えるスペックでしたが、最近は長期間に渡ってOSバージョンアップを含むソフトウェア更新を行う端末も増えて、端末の買い換えサイクルはより長期化しています。

 「長く使うから」とあえて高額な機種を選ぶとします。すると、少なくとも端末代金の支払い期間の月々の支払いは、少し前と同水準かむしろ高くなります。端末代金の支払いが完了しても「高かったから……」と、機種への不満や修理不能な故障が生じない限り、買い換えを控える傾向も見えています。

 結果として、総務省が重要視している「事業者間の流動性」が高まらない可能性もあります。そうなると、僕たち携帯電話販売店の重要性が下がってしまいますよね。

 ちょっと言い過ぎな面もあるかもしれないですが、「一部の人」たちは、対面じゃないと買い換えもままならない人たち、もっといえば僕らの雇用のことまで“考えて”ないんでしょうね。値下げをした場合、その“しわ寄せ”がどこに行くのかも……。

 さまざまな話を聞く中で、もっとも印象に残ったのは「通信料の値下げ」と「会社の利益」の話です。

 多くのキャリアがメインブランドにおける携帯電話料金の引き下げに積極的になれないのは、単純な値下げではサービス面での“しわ寄せ”が懸念されることに加えて、キャリアショップや販売店での雇用への影響も考えた上での行動なのかもしれません。


単純な値下げでは、キャリアショップを始めとする携帯電話販売店(代理店)の多くが路頭に迷う可能性もある(写真はイメージです)
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