政府主導による料金値下げの功罪 MVNOが戦うために必要な競争環境とは?:モバイルフォーラム2021(3/3 ページ)
テレコムサービス協会 MVNO委員会は、3月5日に「モバイルフォーラム2021」をオンラインで開催。「激動のモバイル市場 MVNOに安心して乗り換えるために必要なものとは?」と題してパネルディスカッションを行った。2020年12月からキャリアが発表した新ブランドや値下げに対して、MVNOはどのような戦略を取ればいいのか? またあるべき競争環境とは?
接続料引き下げの前倒しでの対応と、早急な情報開示が必要
データ接続料の次は音声卸料金の低廉化、イコールフッティングのルール作りにも取り組むと大内氏は意気込みを語ったが、今回発表されているMVNOの料金は、既にかなりアグレッシブな値下げをしている。本当に大丈夫なのだろうか。
オプテージの福留氏は、「これまでやってきたコスト削減、効率化に加えて、確度を持って見込まれる音声卸料金の低廉化を盛り込んだ上で刷新している」と説明。採算は見込めるとしたものの、音声卸料金の早期引き下げに期待した。
MVNOのサービスは、ランチ時や夕方、通信速度が低下することがネックだとされている。接続料が低廉化することで、帯域増強にコストをかけられるようになり、通信品質が上がるのかと問われたイオンリテールの河野氏は、「通信品質の見直しや価格以外の差別化戦略の原資にもなると思う」と語ったが、接続料引き下げの前倒しでの対応と、早急な情報開示が必要という点を強調した。
島上氏は、「接続料は下がるが、エンドユーザー料金も下がっていく。MVNOがMNO水準の品質をすぐに出せるかといったら、簡単にはいえない」とくぎをさした。
接続料算定の根拠が開示されず、イコールフッティングの実現に疑問を呈しているMVNOもある。総務省の大内氏は「MVNO側が知りたいレベルでの情報開示がないという課題は認識している」としたが、MNOの経営情報との兼ね合いもあり、「どういった形がいいかは、これから考えたい」と語るに止めた。
ユーザーが移行する際に知りたい情報が足りていない
MNOの料金値下げでMVNOにとって厳しい環境であることは確かだが、解約金が大幅に値下げされ、4月からはMNP転出手数料が無料になるなど、金銭的なハードルは低くなっている。MVNOへの乗り換えを促進するために足りていないものは何かという質問に対し、西田氏は「移行する際に知りたい情報が実際には足りていない」と指摘する。
例えば、MVNOに移行するとキャリアメールが使えなくなるが、それによる影響はあまり認識されていない。最近、ahamoなどMNOのオンライン専用プランに変えるとキャリア決済が使えなくなるケースがあり、利用していたサービスが解約される可能性が指摘された。それと同様のことがキャリアメールで起きる可能性もあるだろう。また、LINEの年齢認証も、MVNOで対応するところが出てきてはいるが、きちんと整理されていない。
「そういう部分をきっちり全部出しておくことが、移行を楽にするためのポイント。今はまだ料金とデータ量くらいしか、はっきりしていない。移行に必要なパーツが、まだ足りない状況」(西田氏)
石川氏は、MVNOへの移行のハードルが低くなっているのと同様に、MNOのメインとサブの変更も簡単になっている状況を指摘し、「キャリア内での移動しか起きなくなってしまう」との懸念を示した。
その石川氏が可能性を感じているのが家電量販店だ。MVNOがリアル店舗を強化するのは難しいことだが、「ahamo、povo、LINEMOに興味はあっても、オンライン専用というところに萎縮する人もいる。キャリアショップだとユーザーは1つを選ばなくてはいけないが、家電量販店ではいくつかある中から選べる」(石川氏)と、メリットと可能性を示した。
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