総務省は通信業界を変えたのか? 14年間の政策を見直し、愚策は撤廃すべき:ITmedia Mobile 20周年特別企画(2/3 ページ)
NTTと総務省による接待報道のおかげで、NTTグループを取り巻く動きが停滞している。接待報道で最も衝撃的だったのが、谷脇康彦総務審議官の辞職だ。谷脇氏が旗振り役として進めていた2007年の「モバイルビジネス研究会」から、通信業界の問題点は変わっていない。
SIMロック解除もMNPも顧客の流動性にはつながらず
総務省としては通信料金と端末代金を分離することで、これまで端末の割引に使っていた原資を通信の値下げに回すべきとしていた。さらにSIMロックを解除し、MNPを導入することで顧客の流動性を高め、値下げ競争につなげようとしていた。
しかし、SIMロック解除もMNPも導入されたものの、中途半端な仕様となっており、流動性につながることはなかった。むしろ、iPhoneが安価にお試し的に買えるとあって、端末割引を歓迎する人の方が圧倒的に多かった。KDDIの田中孝司社長(当時)が「気持ちいいキャッシュバック」という名言を残したように、端末割引によって、スマートフォンは一気に普及したのだった。
現在、日本は世界において5Gで大きな後れを取っている。中国では既に5G契約者数は3億を突破した。日本ではNTTドコモが250万をようやく超えたところだ。
米国のキャリアは5G対応のiPhone 12が出たことで、端末割引を強化した。韓国も5Gスマホの割引に積極的だ。なぜか日本には「端末割引は2万円まで」という規制がある。Beyond5Gや6Gに向けて世界に追い付くと豪語するつもりなら、5Gスマホの普及にも注力すべきではないか。世界に追い付きたいのなら、今すぐ規制を見直すべきだ。
根拠の乏しい「端末値引き2万円まで」と「解約金1000円まで」
端末割引は2万円までという規制は、2019年10月に改正された電気通信事業法で決まったものだが、この改正法では契約解除料を1000円までとする規制も設けられた。これにより、キャリアを解約しやすくなり、流動性が高まるかと期待された。
しかし、この1000円という金額に決まった経緯が何ともお粗末だった。総務省では有識者会議でこの金額を決めたわけではなく、ネットによるアンケートによって、「1000円ならいいかも」という結論でこの金額に落ち着いた。端末割引も、NTTドコモは3万円までならなんとかなるといっていたにもかかわらず、総務省が「もうひと踏ん張り」として2万円に落ち着いたのだった。
2021年になって、MNP手数料なども無料化されることになったが、これも武田良太総務大臣が「メインブランドからサブブランドに移行するのに1万5000円も取るなんてけしからん」と激高したら、キャリアは慌てて、メインからサブへの移行へのハードルを撤廃したという事情がある。
料金値下げはドコモの完全子会社化との交換条件だった?
2021年3月、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクが相次いでオンライン専用プランをスタートさせ、ようやく日本でも値下げを実感できる料金プランが出そろった。
しかし、これが「総務省の政策による成果」なのかと言われれば、かなり疑問と言わざるを得ない。
総務省幹部とNTTとの会食は、2018年に菅官房長官(当時)が「4割値下げできる余地がある」と言い始め、NTTで澤田純社長体制となり、総務省で谷脇氏が通信を見る立場に戻ってきた時期と重なる。2020年の会食は、NTTがNTTドコモを完全子会社化しつつ、ahamoを導入しようとしていたタイミングと符合する。
これまでの総務省は巨大なNTTグループを分離していくなど、競合他社との公正競争に注力していたはずだが、全く逆の動きをすんなりと認めた。業界内では「会食で値下げを実現したい総務省と、グループを一体化したいNTTという両者の思惑が一致したのではないか」と見る人が多い。
料金値下げ競争が、実はNTTドコモの完全子会社化との交換条件であったとしたら、まさに通信行政はゆがめられていることになる。
解除料の引き下げ、MNP手数料の無料化、料金値下げなど、議論などをすっとばして、一部の人たちの会食やアンケート、会見でのどう喝だけで決められていいのか。本来の総務省として果たすべき役割を放棄しているのではないか。もしかしたら、総務省としては、これ以上正当なやり方で議論をしても料金値下げにはつながらないと諦め、白旗を揚げてしまったのか。
もはや有識者会議で通信行政を議論していくこと自体、限界が来ているのだろう。業界のスピード、変化に総務省と有識者が追い付けていないのだから無理もない。
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