「鉄道路線5G化」で5Gエリアを急速に広げるKDDI “パケ止まり”対策でも先行:石野純也のMobile Eye(2/3 ページ)
KDDIは東京の山手線全30駅および大阪の大阪環状線全19駅のホームに5Gの基地局を設置。同社は、利用者の導線に沿った5Gのエリア化を行っており、人口カバー率が90%に達する2021年度末までには、関東21路線、関西5路線に5Gを拡大していく予定だ。大手3社のエリア展開の方針を振り返りつつ、鉄道を中心に5Gのエリア化を進めるKDDIの狙いに迫る。
「鉄道路線5G化」を打ち出したKDDIの狙い
こうした状況の中、KDDIが打ち出したのが「鉄道路線5G化」宣言だ。先に述べた通り、6月30日には東京の山手線全駅と、大阪の大阪環状線全駅のホームで5Gが利用できるようになった。3.7GHz帯で出力も弱いため、ホームの端や電車内などではつかまない可能性もあるが、ラッシュ時などにスループットが落ちる駅のホームは5Gへのニーズも高そうだ。駅のホームや改札回りにターゲットを絞ってエリア化し、それをアピールする狙いもここにある。長谷川氏は、「(基地局の)数も重要な指標ではあるが、“この場所”で5Gの通信が使えるということを意識してやらせていただいた」と語る。
KDDIでは、まず代表的な2路線として上記の山手線と大阪環状線をエリア化。続いて、駅間を5Gのエリアにしつつ、2021年度末までに関東21路線、関西5路線へ5Gを拡大していく方針だ。一方で、ホーム上のエリアはピンポイントになっているため、「エリアマップだけでは、一般のお客さまがどこで使えるのかがなかなか分からない」(長谷川氏)。こうした状況を解決するため、ホームや改札など、どこで5Gに接続できるかをより詳細に示したマップも公開した。
マップ以外でエリアを“見える化”する取り組みとしては、5G接続時限定のコンテンツを活用する。スヌーピーが現実の風景に重なって表示され、一緒に写真や動画を撮れるAR(拡張現実)のコンテンツを用意した。5Gならではの高速通信を生かし、「ここまで高精細なオブジェクトが動くのかと思われるほど、3Dのクオリティーが格段に上がっている」(長谷川氏)という。
KDDIはiPhone 12シリーズ導入時に「au 5Gエクスペリエンス」を開始した。これは、5G接続時かつデータ無制限プラン加入時のみ、動画やFaceTimeの画質を上げたり、特別なコンテンツにアクセスできたりする仕掛けだ。スヌーピーのARコンテンツは、データ無制限プランでなくても利用できるが、スループットの数値ではなく体験価値を重視したという意味では、au 5Gエクスペリエンスの延長線上にある取り組みといえる。
駅ホームのエリア化には、5G用に割り当てられた3.7GHz帯に加え、4Gから転用した3.5GHz帯も活用している。3.5GHz帯は転用ではあるものの、バンド番号が3.7GHz帯と同じn78になっていることからも分かる通り、周波数特性は新周波数帯のそれに近い。速度が4Gと変わらないため“なんちゃって5G”と揶揄(やゆ)されることもある転用5Gだが、「3.5GHz帯は40MHz幅あるので、局数をしっかり入れていけば、お客さまがご利用になられているアプリに対しては十分な速度になる」(長谷川氏)。
また、「わずか0.2GHzの差だが、他事業者への干渉の影響はまったく違い、3.7GHz帯の方が圧倒的に(エリア展開が)難しい」(加藤氏)のは大きな違いだ。干渉調整をしながらピンポイントで3.7GHz帯を導入しつつ、ホームをカバーしてスループットを上げるには、3.5GHz帯がうってつけの周波数帯と言えそうだ。2020年12月に3.5GHz帯の周波数転用を開始したことが、駅ホームのエリア化を加速したとみていいだろう。
KDDIは人口カバー率を2021年度末までに90%まで引き上げる予定だが、現状の4G並みにどこでも5Gにつながるようになるには、まだ時間がかかる。また、エリアが広がっても、帯域幅の広い新周波数帯や3.5GHz帯から転用した5Gがどこでも使えるようになるわけではない。「鉄道路線5G化」のように、ユーザーの導線に合わせてエリア化し、それを分かりやすく伝えていく取り組みは、今後さらに重要性が増していきそうだ。
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