シャープのローカル5G戦略を聞く 端末メーカーのノウハウや鴻海のリソースが強みに:5Gビジネスの神髄に迫る(2/2 ページ)
さまざまな事業者が参入しているローカル5G市場だが、そこに新たに参入を表明したのがシャープだ。同社は2020年8月にローカル5Gに対応したルーターの試作機の開発を発表するなど、デバイス面ではローカル5Gに早くから力を入れている。2021年には自社でローカル5Gの実証実験免許を取得し、「SHARP Local 5G Trial Field」を開設した。
弱みのソリューションはパートナー同士の結び付けを重視
だがローカル5Gは端末やネットワークだけでなく、それを生かして企業の課題を解決するソリューションをいかに提供できるかが最も重要だ。シャープはソリューションに関する実績が多いわけではないので、事業開始当初はSIer、NIerらのパートナーと連携しながらソリューションを提供し、ビジネス開拓を進めていく方針のようだ。
そこで重要になってくるのがSHARP Local 5G Trial Fieldだ。シャープはここを活用し、パートナー企業にローカル5Gのアピールをするだけでなく、顧客のソリューションとローカル5Gを実際に接続して試験をするなどして、具体的なビジネス開発につなげていく方針のようだ。
ちなみに彦惣氏によると、幕張はビジネスニーズが大きい東京に近いシャープの拠点に設置したかったこと、東広島は同社の事業所の中でも敷地が広く、屋外での実証もしやすいなど自由度が高いことが、設置に至った理由だとしている。
先行してオープンしている幕張の拠点では屋内でのデモや実証などを実施しており、既に数十社が見学に来ているとのこと。小林氏によると、関心を寄せる企業はやはり機材面で協力できるベンダーを探しているSIerやNIerが多いというが、PoC(概念実証)でローカル5Gを活用したいという企業から直接、ラボを見ながら打ち合わせをしたいと問い合わせがあることも多いとのことだ。
そこでシャープは、ローカル5Gではハードを提供する比較的フラットな立ち位置にあることを生かし、SHARP Local 5G Trial Fieldでは訪れたパートナー同士が声をかけやすい環境を整えることを重視しているとのこと。パートナー同士を結び付けてソリューションを開拓する場にしていきたいと小林氏は話しており、他社がローカル5Gで展開している、実証実験を主体としたラボとはやや異なる位置付けとなっているようだ。
では、シャープ自身がソリューションを提供することは考えていないのだろうか。小林氏は最終的に、自社でソリューションを提供できる立場になることを目指すとしているが、当面はハードを求めるパートナー企業に貢献することに重点を置き、ハードだけで解決が難しい領域が出てきたときに、それを解決できるソリューションを提案・開拓できる立場になることを目指すとしている。
またシャープは以前より、携帯電話会社と5Gを活用した実証実験も進めているが、携帯電話会社が敷設するパブリックの5Gと、ローカル5Gのビジネスソリューションのすみ分けについてはどう考えているのだろうか。彦惣氏は「エンドユーザーが来たときに、ローカル5Gならではの効果がないと厳しいかなと思っている」と話し、パブリックの5Gでできるものはそちらを推奨する考えを示している。
ただ5Gそのものが黎明(れいめい)期にある現状、ローカル5Gとパブリックの5G、どちらを活用した方が効果的なのかというのは判断が難しい部分もある。それゆえ小林氏は「メーカーが物を作る上ではパブリックもローカルも変わらない。そこを核にしながら、ローカル5Gの方がいいというシチュエーションは確実にあると思うので、それを今後つかんでいきたい」と答えている。
取材を終えて:弱みを強みに変える力で存在感を高められるか
鴻海精密工業のリソースを生かし、デバイスだけでなくネットワーク設備も展開できることがローカル5Gでのシャープの強みだが、ソリューションビジネスに必ずしも強いわけではないことは弱みでもある。ただSHARP Local 5G Trial Fieldなどでの取り組みを見るに、強みと弱みを生かしてSIerなどにフラットな立場で接し、多くのパートナーと協力関係を築こうとしている点は、ローカル5Gに本格的に取り組む上でプラスに働くのではないかと筆者はみる。
ただ、他のメーカーも指摘しているように、機器を主体としたビジネスはいずれ価格競争に巻き込まれる懸念がある。どこかのタイミングで機器から包括的なソリューション事業へと転換が求められる時期が来るだろうし、それまでにいかに同社の強みを生かし、市場でよいポジションを獲得できるかが注目されるところだ。
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