iPhone SEが「一括10円」で販売 上限2万円を超える値引きのカラクリとは?(2/3 ページ)
携帯キャリアによる「iPhone SE(第2世代)」の値引き合戦が過熱している。ある家電量販店では、9月の土日限定の値引きとして「MNPで一括10円」のキャンペーンをドコモ、au、ソフトバンクの各キャリアが実施していた。一見、大手キャリアにとってメリットがないような販売形態のカラクリに迫った。
iPhone SE大幅値引きのカラクリ
では、なぜiPhone SEがここまで安く売られているのか。大手キャリアがiPhone SEを値引き販売するのは、やはり新規契約やMNP転入を獲得するためだ。キャリアや販売店にとって、端末単体購入で割引するメリットは本来存在しない。
このカラクリが生まれた背景は、総務省による「通信と端末の分離」という政策にある。他社から携帯番号を引き継いで乗り換えられるMNP制度が生まれて以来、携帯電話業界では顧客の引き抜き合戦が盛んに行われていた。販売店ではスマホと回線のセット契約で大きな割引をつけ、他社からのMNP転入の獲得を狙った。一部の店舗では「家族で乗り換えて30万円還元」といったような過剰とも思える還元が行われていたこともあった。
この過熱する新規ユーザー優遇を、総務省は問題視した。そのときの総務省のロジックは「大手キャリアは長期ユーザーに対して公平でない扱いをしている」というものだった。ユーザーが毎月支払っている通信料を値引きの原資としているが、この原資を通信料金の低減やサービス拡充に充てるべきところ、新規ユーザーの獲得に費やしている。この還元を減らせば、通信料金を値下げできるのではないか、という理屈だ。
新規契約者への過剰な優遇は、セット販売での割引を規制すれば解消できる。そう考えた総務省は2020年10月、「通信と端末の分離」の方針を携帯業界の販売ガイドラインとして法制化した。大手キャリアと販売店への実質的な規制を課したかたちだ。
この規制は「回線契約を条件とした端末の割引は、上限2万円まで」というものだった。通信契約をセットとする場合、2万円以上の値引きはできない――はずだった。
しかしこれには例外があった。「回線契約を伴わない場合は、値引き額に制限はない」というものだ。回線契約を条件としない場合なら、2万円以上の値引きでも許容されている。これは家電製品のように“型落ち”の製品をメーカーが自主的に値下げする場合などに妨げとならないように定められている。
大手キャリアは「回線契約なしでも値引きし、回線契約があれば割引を上乗せする」という販売手法を編み出した。これが今回のiPhone SEの“一括10円”のスキームだ。
販売側にはメリットなし
この値引き販売は、販売代理店の立場から見ると、新たな課題を引き起こしている。大手携帯電話キャリアのショップ店員に、匿名を条件で実情を聞いた。
店員の証言によると、iPhone SEの販売の値引きはキャリア側が主導するものであるという。キャンペーンは土日を中心に実施されており、値引きの原資は大手キャリアが負担する。対象機種はいくつかあるが、iPhone SEは特に好調な売れ行きだという。
一方で、端末単体購入は、販売店側にはほとんど利益がない販売形態となっている実情もある。
一般的に、携帯電話販売店は仕入れ値とほぼ同等の価格でスマートフォンを販売しており、スマホを売るだけでは収益はほとんど得られないとされる。販売店の重要な収益源は、回線契約の獲得や端末を販売した数に応じて、携帯キャリアが支払う販売奨励金だ。
回線契約なしの端末単体購入で販売した場合は、契約数に応じて支払われ、大手キャリア側の販売奨励金の対象外となり、販売実績としてもカウントされないという。端末単体での利益はほとんどないため、利益を生むことなく在庫が減り、販売時の接客応対の負担だけが残る形となるという。
ただし、端末単体購入を希望する購入者は多くはないという。多くの来店者は新規契約や機種変更などで購入していく。そもそも「キャリアショップで回線契約なしで購入できる」ということ自体が認知されていないからだ。端末単体での販売は携帯キャリア側にとってはメリットがなく、CMや店頭などで大きく訴求されることもない。
その状況が、新たなゆがみを引き起こしている。話を聞いた店員が務める店舗では、端末単体での購入を希望する客はほとんどおらず、多くの来店者は新規契約や機種変更などで購入していく。一方で、単体購入を希望していく客はもっぱら「転売目的と思われる人」だという。
この販売条件では、端末単体で購入して、他のキャリアで使う人が増えると成り立たなくなる。しかし、実際には回線契約を伴わない購入者は多くはない。転売目的の人など、情報収集に積極的な人だけが利用しているというわけだ。
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