なぜ2021年にMVNOの「通話料値下げ」が実現したのか 音声通話の歴史を振り返る:MVNOの深イイ話(1/4 ページ)
MNOが本腰を入れて廉価プランの提供を開始した2021年は、MVNOにとっても大きな進化を遂げた年となりました。各社が、より使いやすく、よりリーズナブルなプランを開始し、MNOの廉価プランでは満足できないお客さまを獲得しつつあります。その中で2021年大きく拡充されたのが、各社の音声通話プランです。
菅前首相の携帯電話料金4割値下げ発言により、MNOが本腰を入れて廉価プランの提供を開始した2021年は、MVNOにとっても大きな進化を遂げた年となりました。各社が、より使いやすく、よりリーズナブルなプランを開始し、MNOの廉価プランでは満足できないお客さまを獲得しつつあります。その中で2021年大きく拡充されたのが、各社の音声通話プランです。
筆者の勤めるIIJがこの4月に提供開始したIIJmioの「ギガプラン」では、音声SIMを選んだ際の追加料金が、従来プランの月額770円(税込み、以下同)から110円となり、また9月からは専用アプリを使わずスマートフォン標準の電話アプリから電話をかけた際の通話料金が、これまでの30秒22円から30秒11円へと半額となりました。このような音声通話プランの拡充は、IIJのみならずMVNO各社から相次いで発表されています。
しかし、これまでMVNOの弱点とも言われてきたのが音声通話です。MNOが時間に制限のない「完全かけ放題」(通話定額)を広く提供できていた中、ついつい長話をしてしまうお客さまにとっては、通話定額が提供されていないだけでなく、割安の通話料のためには専用アプリを使わないといけないMVNOの音声通話プランは不安でしたでしょうし、MVNOが敬遠されてしまう大きな理由の1つとなっていました。
それではなぜ、MVNOはMNOに比べ見劣りのする音声通話プランしか提供できなかったのでしょうか? 2021年に起きたこととは何なのでしょうか? 今回は、MVNOの音声通話プランに焦点を当て、歴史を振り返りながら中の人の視点でご説明しようと思います。
音声通話の歴史と「接続」を巡る規制
さかのぼること明治時代、1890年に日本で初めての電話サービスが、東京と横浜の計197回線でスタートしました。当時は、話したい相手先の電話番号を送話口に伝えると、「交換手」と呼ばれる係員が交換台を操作して相手先の電話機との間で電気回路をつなぐ操作をしてくれた、手動交換の時代でした。
以後、130年の間に電話は大きく普及していきます。若い女性の人気の就職先であった交換手は、加入者の増加に伴い機械式の電話交換機へと置き換わっていき、さらにはコンピュータによって制御される交換機により電話交換が行われるようになります(デジタル交換機の登場)。電話の提供は、戦前は国営事業として行われていましたが、戦後、日本電信電話公社(電電公社)の時代を経て1985年に自由化、電電公社から民営化したNTTに加え、KDD(現在のKDDI)や日本テレコム(現在のソフトバンク)が参入するなど、民間企業による多種多様な電話事業が花開きました。
ところで、複数の電話事業者が登場した、ということは、電話を実現するための「回路」(電話回線)が複数の電話事業者の設備にまたがるものとなった――つまり、利用者と電話の相手先がたまたま同じ電話事業者と契約している場合を除き、複数の電話事業者の電話交換機が協調して2台の電話機をつなぐ必要が生じた、ということです。
このとき、利用者から見れば、相手先がどの電話事業者と契約しているかによって、電話がつながったりつながらなかったりということがあれば不便なものです。それだけでなく、既に電電公社時代に国内で多くの電話の契約を独占的に有していたNTTが、KDDや日本テレコムのような新規参入事業者の加入者へは電話をかけられないようブロックし、あるいは電話交換機の接続に高額の対価を請求するようなことがあれば、新規参入事業者と契約したいと思う利用者は存在しないでしょう。それではせっかく自由化したといっても結局は独占市場に戻ってしまいかねません。
そこで、通信が自由化された1985年に施行された電気通信事業法は、通信事業者に対し他事業者の設備(電話交換機等)との「接続」を義務付けるとともに、NTTが他社に課す接続料金(接続料)を直接規制しました。このような法規制により、新規参入事業者は公正な競争の機会を与えられたのです。中には市内通話を含めNTTとがっぷり四つに競争を挑んだ事業者や、長距離通話に自ら特化しテレビCMで4桁の番号(事業者識別番号)を連呼しつつ安価な長距離通話料金をアピールする「中継事業者」など、さまざまな事業形態が登場し、日本の通信の自由化は進められました。
現在は、固定電話こそ依然としてNTTグループ(NTT東日本・NTT西日本)による強い独占状態が見られますが、通信の自由化以後に登場した携帯電話には独占はなく、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの3MNOによる寡占状態となっており、そこに楽天MNOやMVNOなど後発の事業者が挑んでいる構図となっています。
法規制の面で言うと、固定電話におけるNTT東日本、NTT西日本と、携帯電話を担う事業者のうちNTTドコモ、KDDI、ソフトバンク(およびそのグループ会社のうち沖縄セルラー、UQコミュニケーションズ、ワイヤレス・シティ・プランニング)は、電気通信事業法の「指定事業者」とされ(NTT東西が規制の厳しい「第1種指定事業者」、NTTドコモ・KDDI・ソフトバンクなどはより規制の緩い「第2種指定事業者」)、他の通信事業者に対し課すことができる接続料が規制されています。
関連記事
総務省、携帯の音声料値下げを検討へ 従量料金は10年以上変化なし
総務省が5月31日に開催した「競争ルールの検証に関するWG(第19回)」にて、携帯電話の音声通話料金の見直しが議題に挙がった。携帯キャリアの音声通話料金は、従量課金だと30秒あたり22円(税込み)で10年以上変化がない。3キャリアは「実質的な音声通話料は下がっている」と説明した。MVNOで“専用アプリ不要の通話定額”はいつ定着するのか? 直近の動向を整理する
MVNOのモバイル通信サービスは、データ通信量の大容量化や低廉化が年々進む一方、音声通話の料金やサービス内容にはあまり変化がない状況が長く続いていた。だが現在、その音声通話料金に関して大幅な見直しが進められている。MVNOでも専用アプリを使わずに通話定額が実現する日は、そう遠くないのかもしれない。MVNOで音声かけ放題は実現するのか? 5G時代の接続ルールはどうなる?
モバイルフォーラム2021のパネルディスカッションでは、MVNOの音声定額サービスや5Gへの取り組みについても議論。MVNOにとっても通話に関する動きは好転しているが、ニーズはどれほどあるのか。5Gサービスを提供しているMVNOもあるが、どのような接続ルールが望ましいのか。日本通信とドコモが「音声通話卸役務」の料金設定に合意 MVNOの音声通話サービスの充実につながるか
日本通信とNTTドコモとの「音声通話卸役務」の料金に関する交渉が、総務大臣裁定の期限から約1カ月遅れで合意に至った。値下げされた料金設定を生かした音声通話サービスの充実が期待される。「IP電話」や「中継電話」の通話料金はどうして安いの?
格安SIMで音声定額を実現するハードルは高いのですが、通話料金を安く済ませられるサービスは数多く存在しています。IP電話やプレフィックス番号を付けるサービスがありますが、これらはなぜ安くできるのでしょうか?
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.