総務省「スマホ乗り換え相談所」で見えた、脱・格安スマホと乗り換えの壁(3/3 ページ)
2021年は政府の呼びかけにより、オンラインブランドの提供開始や「スマホ乗り換え相談所」の実証実験が行われた。この「スマホ乗り換え相談所モデル事業」の効果や課題について振り返っていく。
購入サポートは8割が必要、中古スマホ支持は24%
スマホの購入サポートや中古スマホの利用、電気ガスの案内について見てみよう。これらの内容は、相談所単体での事業化は難しくとも、別のサービスの提供や契約と組み合わせることで事業化のめどが立つ可能性の参考となる。
スマホ本体の購入手続きや選定サポートについてだが、この表では端末の購入が必要か不必要かと、購入する際にどれだけの人がサポートを求めているのかが見づらい。このため、同じデータから理解の補助用のグラフも作成した。
端末を購入しない人の理由は、料金プランの変更やサブブランドへの乗り換えで端末購入がそもそも必要ない、またはiPhoneのようなほぼ全キャリアで動作確認がとられているモデルを利用しているといった状況が考えられる。
新たに端末を購入する人にフォーカスすると、購入手続きや選定サポートを求める人がスマートフォンとガラケーのどちらにおいても非常に多い。既に量販店や専門店で実施している話だが、スマホの購入と合わせた料金プランの相談は親和性が高いといえる。
中古スマホに関しては、約8割が利用したくないと回答している。
より具体的な内容を、公正取引委員会の調査からも見てみよう。見た目で分かる傷や汚れはともかくとして、バッテリー寿命と故障時の不安さを指摘が主な要因となっている。
実際に利用するスマホを買う場合、バッテリーは新品交換済みか、自己診断の最大容量で90%以上は欲しいところだろう。Androidだと最大容量80%以上という大ざっぱな情報のモデルも多い。また、高額な中古になると半年か1年程度の自然故障に対する何らかの補償か保証は欲しくなる。中古市場の活性化には、この辺りの改善が必要だろう。
電気・ガスのセット案内についてはおおむね半数が希望している。電気・ガスは自由化されたが、料金プランが複雑など複数社の比較がやや難しい。ソフトバンクやau、2022年3月から開始したドコモの新電力は、スマホの割引やポイント還元という分かりやすい割引に加え、インフラ事業者という信頼感から検討する人が多いとみられる。
実際、資源エネルギー庁による小売電気事業者の電力販売量データのうち、新電力の個人向けを見ると、東京ガスやENEOSに次いで、ソフトバンク(SBパワー)とau(KDDI)も上位グループに入っている。MNOは新電力でも選ばれるだけの販売力があるといえる。
独自サービスも評価する「脱・格安スマホ」の視点も必要
今回の乗り換え相談所の実証実験だが、総務省としては事業化の可能性や内容の方向性を探るものとしてまとめの作成に入っている。ここで気になったのは、今後も携帯電話会社間の市場競争の検証や制度面と同様に、携帯電話会社のプランを料金と基本サービスを中心に捉え続けるのかという点だ。
確かにMVNOは「格安スマホ」「格安SIM」と呼ばれ安さが注目を集めていたが、現在では政権や総務省によるMNOメインブランド値下げの動きで価格面での優位性は下がっている。だが、今では個人向けでも独自サービスが魅力的なMVNOの携帯電話会社も登場しているのも確かだ。
ここで、乗り換え相談の手引きやガイドライン的なものを設計するなら、料金の安さと同様に、各社による独自サービスの内容も評価もしなければ公平な相談にならないだろう。総務省も「携帯電話ポータルサイト」を解説し大手MNOと大手MVNOの情報は充実しているが、個人のライフスタイルに影響するサポート体制や、スマホの機種の選び方の説明は少ない。携帯電話会社を乗り換えない理由の上位に、「魅力的なサービスがない」の割合が多い意味を考える必要がある。
これは乗り換え施策についても同様だ。乗り換えが「面倒だから」の理由の解決に、MNP手続きの簡素化は確かに重要だ。だが、個人が本当に面倒に感じている“面倒の壁”はプラン選択からスマホの問題など多岐にわたる。利用者が現在の料金を確認する方法や、スマホ間の簡単なデータ移行方の案内、LINEのトーク履歴をiPhone~Android間で持ちこせない問題や、クラウドの写真や電子マネーの引き継ぎ方法などさまざまな要因がある。
国、総務省が個人のスマホ利用や乗り換えについて、間接的な実証実験とはいえそこまで関与すべきかの是非もある。とはいえ、今後も個人の利用スタイルに言及するのであれば、携帯電話会社間の大枠の比較だけでなく、個人のライフスタイルに沿ったより具体的な調査・検証を期待したいところだ。
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