KDDIが“エリアの穴”をふさぐのに「Starlink」を採用したワケ スマホの直接通信には課題も:石野純也のMobile Eye(2/3 ページ)
KDDIは、低軌道衛星通信の「Starlink」を基地局のバックホールに活用する。12月1日には、その第1号となる基地局が静岡県熱海市の離島である初島で開局した。離島や山間部ではバックホールに光ファイバーを敷設できないため、Starlink基地局が活躍する。
Starlink基地局導入の効果を初島で確認、サービス展開の早さが強みに
初島には、もともとKDDIの基地局が設置されているため、通信をすることはできた。一方で、バックホールにはマイクロ波を活用しており、本土との見通しが必要になる。そのため、基地局は比較的高い場所に設置しなければならない。Starlink基地局を設置したのは、「(目の前が)崖のようなところで、温浴施設やプールもあり多くの方が滞在するが、通信環境が悪い」(泉川氏)エリア。ユーザーからも、エリア対策を望む声が挙がっていたという。
実際、筆者もStarlink基地局の運用開始前に同エリアの状況を確認したが、ドコモ、KDDI、ソフトバンクともに通信がしづらい環境だった。電界強度が弱く、通信も遅い。表示しようとしていたサイトが、タイムアウトで見られなかったこともあった。KDDI回線でスピードテストをしてみたところ、下りは約4Mbps出ていた一方で、上りは1Mbpsを割ってしまった。
高橋氏とホフェラー氏が、サービス開始のボタンを押した後、iPhoneをフライトモードにして、電波をつかみ直してみたところ、Starlink経由の基地局につながったようだ。アンテナピクトが4本に増え、通信もスムーズになった。同じくスピードテストを行ったところ、下りが25.8Mbps、上りが6.65Mbpsと、通信品質は大きく改善されている。どちらも6倍強。遅延(Ping)が255msと大きいのが、衛星を経由している証拠といえる。
基地局は、「定型化しているため、かなりスピードアップして対応できるのでは」というのが高橋氏の見立てだ。実際、基地局は比較的簡素な作りで、ポールの先にStarlinkのアンテナと、携帯電話の電波を吹くアンテナが取りつけられているだけ。信号処理を行うベースバンドユニットも、ポールに直結されている。建設のための工事は必要だが、光ファイバーを接続しなくていいため、場所の自由度も高い。
衛星を使ったエリアの拡張は、他社も取り組もうとしている。代表例は、楽天モバイルのスペースモバイル計画。同社の場合、米AST SpaceMobileが打ち上げた低軌道衛星を活用し、国土カバー率100%を目標に掲げている。また、ソフトバンクはソフトバンクグループが出資するOneWebを活用。NTTはスカパーJSATと組み、HAPS(High Altitude Platform Station)を経由し、地上との通信を行う「宇宙統合コンピューティング・ネットワーク」計画を打ち出している。
一方で、KDDIのStarlink基地局は、既にサービスインできているのが強みだ。SpaceXは「3000を超えている衛星を打ち上げているのが、圧倒的な優位性」(高橋氏)といえる。また、楽天モバイルの計画は、衛星とスマートフォンが直接通信する方式だが、低軌道と言っても距離は500?以上離れているため、「アンテナ関係を直していかないと、ダイレクトにはつながらない」(同)といった技術的な課題もある。今の段階では、基地局を介してモバイルネットワークに接続する方が現実的だ。
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