KDDIが“エリアの穴”をふさぐのに「Starlink」を採用したワケ スマホの直接通信には課題も:石野純也のMobile Eye(1/3 ページ)
KDDIは、低軌道衛星通信の「Starlink」を基地局のバックホールに活用する。12月1日には、その第1号となる基地局が静岡県熱海市の離島である初島で開局した。離島や山間部ではバックホールに光ファイバーを敷設できないため、Starlink基地局が活躍する。
KDDIは、低軌道衛星通信の「Starlink」を基地局のバックホールに活用する。12月1日には、その第1号となる基地局が静岡県熱海市の離島である初島で開局した。同日には、代表取締役社長の高橋誠氏や、米Space Exploration Technologies(SpaceX)でバイスプレジデントを務めるジョナサン・ホフェラー氏が集い、オープニングイベントを開催した。KDDIは、このStarlink基地局を早期に1200カ所へと展開していく計画だ。
4Gで99.9%の人口カバー率を誇るKDDIだが、この指標は、あくまで人が住んでいることを前提としたもの。国勢調査に用いられる500m区画を50%超カバーしているメッシュの人口を、全人口で割って算出される。逆に、人が居住していない離島や山間部などは、指標に表れず、エリアの“穴”になっていることがある。こうした場所での切り札になるのが、Starlink基地局だ。ここでは、その仕組みとともに、SpaceXと提携したKDDIの狙いを解説していきたい。
低軌道衛星をバックホールに使うStarlink基地局とは? そのメリットを解説
Starlinkは、SpaceXが運用する低軌道衛星通信。端末は上空約550?を飛ぶ衛星と直接つながり、衛星から通信は地上局を介してインターネットにつながる。ただ、低軌道衛星は地球に近い分、1台1台のカバー範囲が狭く、常に移動している。常時接続を提供するためには数が必要だ。SpaceXの通信が実用的なのは、「Falcon 9」と呼ばれるロケットに搭載した衛星を、既に3000機以上打ち上げているためだ。
このStarlinkを日本で展開にするにあたり、技術面と制度面で協力したのがKDDIだ。Starlinkの衛星をインターネットにつなぐための地上局は同社が運用している他、電波法など、法規制とのすり合わせも必要になるため、総務省との技術検証にも協力してきた。こうした経緯もあり、KDDIはSpaceXの「認定Starlinkインテグレーター」に選定されており、法人や自治体向けの「Starlink Business」を開始する。
Starlink Businessは、ある意味KDDIが代理店のような形でStarlink回線を販売し、その上で同社のサービスを提供するもの。これに対し、Starlink基地局は、KDDI自身の基地局にStarlinkを取りつけ、離島や山間部などをエリア化するための取り組みだ。基地局は、バックホールと呼ばれる回線を通じてコアネットワークなどの設備に接続する。通常、ここに用いられるのは光ファイバーだ。この光ファイバーを、Starlinkによる衛星通信に置き換えたのが初島で披露した基地局だ。
キャリア側のメリットは、設置のしやすさに集約される。KDDIの高橋氏は「光ファイバーなしでも基地局を設置でき、電力もソーラーパネルで供給すれば、まったく何もないところに基地局を持っていける」と語る。Starlinkで直接通信するのとは異なり、基地局を介してKDDIのコアネットワークにつながるため、特別な設定などは必要なく、ユーザー側は普段と同じように電話やデータ通信をそのまま使うことが可能。Wi-Fiで中継するより、エリアも広い。
KDDIの事業創造本部 LX基盤推進部の泉川晴紀氏は「(山間部などの)開発現場に行っても、普段と同じ090や080、070の番号が使えるようにしたいという声を多くいただいている」と言うが、Starlink基地局であれば、こうしたニーズにも応えることができる。エリア展開が容易なStarlinkの特徴を生かしつつ、普段使いの携帯電話をそのまま利用できるようにしたのがStarlink基地局を展開するメリットといえる。
高橋氏によると、こうした基地局は早期に1200局を展開していくという。1200局は、KDDIが必要だと判断したところに設置する。一方で、「法人のお客さまからぜひここにという場所に対しては、ご要望に応じて建てていく」(泉川氏)という。法人や自治体に特化しているStarlink Businessとは異なり、Starlink基地局は、コンシューマーと法人の双方に展開していくというわけだ。サービスを開始した初島も、どちらかといえばコンシューマー向けという色合いが濃い。
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