KDDIが“エリアの穴”をふさぐのに「Starlink」を採用したワケ スマホの直接通信には課題も:石野純也のMobile Eye(3/3 ページ)
KDDIは、低軌道衛星通信の「Starlink」を基地局のバックホールに活用する。12月1日には、その第1号となる基地局が静岡県熱海市の離島である初島で開局した。離島や山間部ではバックホールに光ファイバーを敷設できないため、Starlink基地局が活躍する。
展開できる場所には限界も、スマートフォンとの直接通信にも期待
ただし、Starlink基地局も万能ではない。あくまで光ファイバーが引けないエリアへの展開にとどめるのも、そのためだ。キャパシティーの問題は、その1つだろう。バックホールに活用するといっても、Starlinkの通信速度は、下り最大350Mbps。スマートフォン1台でそれだけの速度が出れば十分なスピードではあるが、基地局には複数台の端末がつながる。多数の人が集まって同時に通信すると、十分な速度が出なくなってしまう恐れもある。
また、衛星通信は天候の影響を受けやすい。サービス開始時の初島は曇りで、問題なく通信できていたが、「豪雨のようなときには影響を受けると思っている」(泉川氏)。高い周波数ほど天候に左右されやすくなるからだ。衛星と地上局の間は、「より周波数が高く、影響を受けやすい」こともあり、「天候の影響が大きいときには別の地上局で通信するような仕組みも入っている」(同)というが、基地局側のスループットが低下するなど、何らかの問題が起こるケースはありそうだ。
同様に、降雪に関しても「Starlinkのターミナルに融雪機能があり、ある程度の雪は溶けるようになっている」(同)が、豪雪地帯での運用は難しいかもしれない。とはいえ、KDDIは「現状でも静止衛星を使って(基地局展開を)やっているので、その知見を含めて、どういったところに付けられるかは検討していく」(同)。Starlink基地局の目標である1200カ所の一部も、静止衛星をバックホールにした基地局の置き換えになるという。
今現在サービスを提供できているという意味で、Starlink基地局は現実解ではあるが、基地局の設置には用地選定や工事などの時間もかかる。ごくまれにしか人が足を踏み入れない場所などにも展開はしづらい。将来的には、やはり衛星とスマートフォンの直接通信も必要になりそうだ。高橋氏も、「衛星経由の緊急SOS」が利用できるようになったiPhone 14や、同じSpaceXとスマートフォンの直接通信を計画する米T-Mobileの例を挙げつつ、次のように語る。
「米国(北米)では、AppleがGlobalstarの衛星を使って、iPhone 14とダイレクトにつながってメッセージなどの通信をできるサービスが始まっている。StarlinkとT-Mobileも動いている。今回、Starlinkとはいい関係ができたので、その延長線上で(衛星とスマートフォンの直接通信を)実現できればいいと思っている」
スマートフォンとの直接通信には、アンテナなどの技術改良に加え、制度面での対応も必要になる。また、実現できたとしても、今のスマートフォンだとStarlink基地局のような速度を出すのは難しい。特に、スマートフォンから電波を発射する上りの通信がネックになる。一方で、国土全体をカバーしていれば、いざというときにSMSなどのテキストメッセージを送ることはできる。キャリアが主導すれば、iPhoneの衛星経由の緊急SOSとは異なり、端末を選ばず利用できるようになる可能性もある。KDDIとStarlinkの今後の取り組みにも期待したい。
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