ドコモ井伊社長インタビュー:楽天とは「芸風が違う」O-RAN戦略/d払いがPayPayに追い付くには:MWC Barcelona 2023(1/3 ページ)
基地局を構成する各装置の仕様をオープン化した「O-RAN」の標準仕様を策定するため、ドコモは海外事業者とアライアンスを組んでいる。海外キャリアへのO-RAN導入支援ビジネスを本格化させ、当初の目標は「100億円規模」を目指す。国内通信事業はARPUの反転を目指し、d払いは使い勝手を改善していく。
通信機器ベンダー1社がキャリアのネットワークを丸抱えする構造からの脱却を目指すため、基地局を構成する各装置の仕様をオープン化したのが「O-RAN」だ。この標準仕様を策定するため、ドコモは海外事業者とアライアンスを組み、活動を展開。その成果が実り、2023年のMWC Barcelonaではさまざまなキャリアやベンダーが、O-RANに関する発表を行っている。ドコモ自身も、新たに「OREX」というブランドを立ち上げ、海外キャリアへのO-RAN導入支援ビジネスを本格化させていく。
ドコモの代表取締役社長、井伊基之氏によると、当初の目標は「100億円規模」。MWCでは、英Vodafoneや米Dish、韓国KTなど、ドコモが導入支援を行う海外通信事業者が5社を突破したことが発表された。一方で、日本勢では楽天モバイルもO-RANや仮想化ネットワークを海外キャリアに導入する楽天シンフォニーを立ち上げ、ビジネス展開を加速させている。
翻って、国内通信事業はARPUの反転を目指していく方針。データ容量無制限の「ギガホ」や、オンライン専用料金の「ahamo」を推進し、増加するデータ通信需要に応える。d払いなど、通信回線の上で提供するサービスに関しては、使い勝手を改善していく方針を示す。O-RANなどの海外ビジネスや国内通信事業に対し、ドコモはどのように取り組んでいくのか。井伊氏がMWC会場でインタビューに応じ、こうした疑問に答えた。
ドコモのO-RANは楽天シンフォニーとは「芸風が違う」
―― ドコモは、19年以来、4年ぶりのMWC現地参加になりました。まずは、率直な感想を教えてください。
井伊氏 20年以降はCovid-19でMWCに来ることができませんでした。かなり準備もしていたのですが、直前に(会自体が)キャンセルになってしまった。出展料は全額スリました(笑)。当時は生命の安全の方が優先されるので、日本から行くことは断念したわけですが、その間に日本で作ったNTTコノキューのお披露目ができました。O-RANも何社かとリリースを出せましたし、OREXというブランドも立ち上げた。こうした準備ができた、いいタイミングで出展でしたと思います。
―― MWCではO-RANの話題でもちきりですが、OREXの今後の見通しを教えてください。楽天シンフォニーのように、金額目標のようなものはありますか。
井伊氏 楽天は以前から楽天シンフォニーをやられていますが、うちもドコモと13ベンダーの集合体としてやってきています。ただし、これはドコモが(単独で)やっているかというと、そうではありません。一番強力にサポートしなければいけないのはドコモですが、OREXという全体を示すブランドの下で、1つのエンティティ(実態)がこれを進めているように見えると思います。他のキャリアには、そう映るのではないでしょうか。
内実としては、ドコモも自分たちのネットワークにO-RANを利用しています。キャリアとしての利用実績があった中で、他のキャリアにもお勧めしているという構図です。勧められたキャリアから見ると、ドコモが使っているので、バージョンアップやサポートはその経験値でやってくれるという信頼のブランドになります。
Vodafoneなど、いくつかの会社と準備をしていますが、全部を東京からサポートするのは難しい。欧州なり、アジアなり、北米なりにサポートのチームや拠点を作らなければ、お客さまも心配になります。リモートで全てできるかというと、それはできません。そこで、注文実績が取れてきたら、オペレーションをどう現地化していくかを考えていきます。体制も、人を増やしていくことはしたいですね。
金額に関して、何か決めているようなものはありませんが、「100億円を超えないものは事業ではない。それも踏まえて「早期に100億円は突破しよう」とは言っています。
―― ドコモ全体から見ると、100億でも小さい数字ではないでしょうか。
本当は1000億と言いたいところですが、大きくし過ぎて山が高いとため息が出てしまうので、まずは100億円です。根拠がない数字を言ってもしょうがないですが、今、楽天シンフォニーは600億から700億の間ぐらいなので、できない数字ではありません。まずは2桁から100億円台に早く上がっていきます。
今の状況を見ていると、相手のキャリアは全部が全部O-RANというわけではなく、もともとのネットワークベンダーの基地局で通信ができているので、そのうちの何%かをO-RANにしたいというアプローチです。いっぺんに更地から作るのではなく、ネットワークを5G化する中でベンダー1社体制から徐々に離れていく。そういった過渡期がどうしてもありますから、どちらかというとブラウンフィールド(既存の事業がある中で新たな設備投資などを行う事業のこと)的な事業になります。
―― 楽天シンフォニーには、自らが仮想化基地局向けのソフトウェアやクラウドを持ち、それを販売している事業者という側面もあります。ドコモはこういったことをやっていかないのでしょうか。
井伊氏 そういう意味では、楽天シンフォニーとは芸風が違います。
私たちは、自分でまず仮想化してvRAN(CU/DUなどの装置を仮想化すること)を入れ、運用実績を作り、それをベースにお客さまをサポートしています。自分たちで築き上げたものにベンダーの力をプラスしながら展開しています。テストベッドもYRP(横須賀リサーチパーク)に作り、リモートでつないで他のキャリアが試験をできる。自分たちがドコモのネットワークのために用意してきたものを、新しいキャリアのために使っていくモデルですね。
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