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5Gが変えたエリア競争の在り方 JTOWERの“インフラシェアリング”が支持されている理由石野純也のMobile Eye(1/3 ページ)

2022年3月にドコモから基地局設置のための鉄塔6000本を買い取る発表をしたことで話題を集めたのが、インフラシェアリングを主力にするJTOWERだ。日本ではインフラシェアリングの活用はあまり進んでこなかった。この状況を変えたのが、5Gだ。5Gの導入で設備投資がかさむ中、各社ともインフラシェアリングを活用する方針に転換している。

 2022年3月にドコモから基地局設置のための鉄塔6000本を買い取る発表をしたことで話題を集めたのが、インフラシェアリングを主力にするJTOWERだ。インフラシェアリングとは、複数のキャリアが基地局を“相乗り”を指す。諸外国では主流の方式だが、日本ではキャリア各社がそれぞれ基地局を建て、エリアの広さを競争軸にした経緯もあり、インフラシェアリングの活用はあまり進んでこなかった。この状況を変えたのが、5Gだ。

 5Gの導入で設備投資がかさむ中、各社ともインフラシェアリングを活用する方針に転換。KDDIとソフトバンクがこれを推進する「5G JAPAN」を設立したことは、その一例。ドコモがJTOWERに鉄塔を売却したのも、エリア拡大が競争領域ではなく、協調領域になりつつあることを象徴している。JTOWERは設立が2012年と早く、10年以上、この領域に取り組んできた先駆者だ。5G時代になり、その存在感が増している同社の戦略や強みを解説する。


インフラシェアリングの先駆けともいえるJTOWER。同社は、17日に記者向けの説明会を開き、その事業戦略や技術を解説した

自社開発の設備で屋内インフラシェアリングを伸ばす

 社名に“TOWER”とついていることからも分かるように、JTOWERは当初から、鉄塔をキャリア各社で共有するタワーシェアリングを志向していた。一方で、「日本のキャリアは各社がバラバラに設備投資をしてきた過程がある」(代表取締役社長 田中敦史氏)。2012年と設立が早かったJTOWERだが、当時はタワーシェアリングを受け入れるキャリアはなく、苦戦を強いられていた。そこで同社は、まずIBS(In-Building Solution)と呼ばれる屋内設備のシェアリングを進める。

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建物内のアンテナなどを共有するIBS。4G、5Gのどちらにも対応しており、件数を着実に伸ばしている

 外からの電波が届かないビルなどは、機械室などに基地局の設備を入れ、そこからアンテナを分配し、建物内を広くエリア化するのが一般的だ。ただ、これを各社がバラバラにやると、現状では4社分の設備が必要になってしまう。建物によっては、アンテナの設置や配線が物理的に難しいケースもある。そこで、JTOWERは「バラバラに配線するのではなく、1本で済ませてしまえばよいのではないかと考え、自社で共用装置を開発した」(同)。


JTOWERの田中社長

 これを建物に導入すると、RU(子機)と呼ばれる無線信号を光信号に変換する子機やアンテナを複数のキャリアで共有でき、ビルの機械室に複数社の基地局(ベースバンドユニット)を設置するだけで済むようになる。キャリアは、配線済みのビルに基地局を追加するだけ。エリア化の工事を大幅に簡略化できる。4社それぞれに対応する必要がなくなり、交渉や工事の時間を短縮できるのは、ビルのオーナーにとってもメリットといえる。


FDDの同軸分配方式とTDDの光分配方式で設備構成は異なるが、キャリアは基地局を機械室に設置するだけでよく、スムーズにエリア化できる

5Gにも対応可能。ショッピングモールでは、フードコートなど、混雑しやすい場所のみ5G化することもあるという

 JTOWERは、2014年に4Gの商用サービスを開始。2020年には、5Gに対応した共用装置も開発した。こうした利点がビルのオーナーとキャリアの双方に受け入れられた結果、2022年末の導入実績は全国で374件に達し、屋内にインフラシェアリングの件数は順調に伸びている。もともとは、新築の物件に導入することが多かった共用装置だが、「既存の設備が古くなった際にJTOWERで巻き取ってくれないかという話がある」(同)といい、設備の置き換えも徐々に増えている。


屋内インフラシェアリングは順調に伸び、2022年には全国で347件に達した
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