Starlinkの衛星通信で「KDDIの仕事がなくなるのでは?」 株主総会で心配の声
KDDIが6月21日、第39期定時株主総会を開催。高橋社長は2022年7月の通信障害に関して改めて謝罪をして、通信基盤強化に向けた取り組みが予定通り完了していることを報告した。衛星通信のStarlinkとの取り組みも紹介したが、株主からは「KDDIの仕事がなくなるのでは?」と心配の声が挙がった。
KDDIが6月21日、第39期定時株主総会を開催し、高橋誠社長が現状の戦略を株主に説明して、質疑応答にも応えた。
高橋社長は2022年7月の通信障害に関して改めて謝罪をして、通信基盤強化に向けた取り組みが予定通り完了していることを報告。中期経営計画の3年間で、500億円規模の追加投資を行い、さらなる通信基盤の強化にも取り組む方針で、例えば運用の高度化ではスマート監視とAIを活用した障害対応の迅速化を図った他、副回線サービスも紹介。「今後も全社を挙げて取り組んでいく」(高橋社長)方針を示した。
その他の取り組みについては、KDDIの目指す姿として「一番身近に感じてもらえる会社になりたい」(同)という目標を掲げており、その一環として、役員、社員全員が「就業時間の1%をお客さまと過ごす」という活動を推進しているという。
具体的には、スマホ・ケータイ安全教室やおもいでケータイ再始動といった活動に参加する取り組みなどを行っているそうだ。
「昨今、AIを取り巻く環境が急激に変化している」として、高橋社長は生成系AIに関しても言及する。KDDIでは「KDDI AI-Chat」を開発しており、5月から社員1万人が利用できるようにしている。「まずは社内業務での利用を推進し、社内のAIスキルの向上、業務効率化を進めていく」(同)という状況だ。
こうした取り組みで具体的なユースケースを積み上げて、AIのビジネスへの活用にもつなげていくことを狙っているという。
中期経営計画2年目となる2023年度は、連結売上高5兆8000億円、連結営業利益1兆800億円を見込む。株主還元は、この中経期間で1.5兆円規模を実施する予定で、2023年度は22期連続増配と配当性向40%超を想定する。年間配当金は140円の予定。
株主からは、海外事業であるミャンマーの通信事業について、政情不安が続くことから今後の方針についての質問が挙がった。
執行役員常務CFOの最勝寺奈苗氏は、「顕著な改善が見られないミャンマーの現状は深く憂慮している」とコメント。「社員の安全を確保しながらミャンマー国民向けの通信インフラ維持に努めている。今後も現地の動向を見ながら、状況変化に応じて適切な対処を検討していく」方針だ。
高橋社長の事業説明では、衛星通信のStarlinkとの取り組みも紹介された。それを受けての株主の質問では、「将来的にユーザーと衛星通信が直接契約するようになると、こうしたKDDIの仕事自体がなくなってしまうのでは」との懸念が表明された。
これには事業創造本部長の松田浩路執行役員が回答。StarlinkのスペースXとは2021年から契約に合意し、au基地局のバックホールとして、光ケーブルが敷設できないようなエリアに設置するという事業と、Wi-Fiのバックホールとして設置するStarlink Businessという2つの事業を展開。山小屋や音楽フェスなどで活用しているそうだ。
「今後もさまざまな領域で協業していく方針だが、携帯電話にはコアネットワークが必要となり、スペースXとは協力し合うことでサービスを提供できる関係」と松田氏は説明。両社は協力関係にあることを強調した。
高橋社長は加えて、「現在は基地局のバックホールで、将来的にはスマートフォンに直接接続する時代が来るが、これには数年かかる。また、日本の国土の99%以上をわれわれのネットワークが整備していて、例えば家の中など衛星だと届かないエリアも発生するので、あくまでも補完的な立場になる」と補足する。
メタバース事業についての問いには松田氏が回答。「メタバースの市場規模は、数百億円の規模から1000億円以上、4桁億円という規模の予測。われわれの強みは通信事業で培ったセキュアな環境、IDを含めてセキュリティを重視している。空間が3D化されていると通信量も膨大になる。これを支える5Gのようなインフラ基盤などが強み」と松田氏は説明した。
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