NTT法廃止は「必ず禍根を残す」「国民の利益が損なわれる」 KDDI、ソフトバンク、楽天のトップが猛反発(1/2 ページ)
「NTT法の廃止」を巡り、通信事業者181社が反対の意見を表明した。その代表としてKDDI、ソフトバンク、楽天モバイル、全国ケーブルテレビ連盟の12月4日に記者会見を開いた。NTT法が廃止されることで、料金の高止まりや地方維持できない問題があることを改めて訴えた。
自民党内で議論されている「NTT法の廃止」を巡り、通信事業者181社が反対の意見を表明した。その代表としてKDDI、ソフトバンク、楽天モバイル、全国ケーブルテレビ連盟が12月4日に記者会見を開いた。
KDDIの高橋誠社長、ソフトバンクの宮川潤一社長、楽天モバイルの三木谷浩史会長、日本ケーブルテレビ連盟の村田太一専務理事が登壇し、NTT法廃止に反対する主張を展開した。この記事では、NTT法の会見の内容を基に、NTT法の廃止に反対する立場の意見をまとめる。
NTT法廃止の懸念「料金高止まり」「地方維持できない」
KDDIの高橋誠社長は、「通信事業者のいざこざに見えるかもしれないが、国民の皆さんのサービスに直結する問題がある」と訴える。
ソフトバンクの宮川潤一社長は「国民の生活全て、企業の経済活動全てに(影響がある)」として「国民不在の議論には、断固反対する」と主張する。楽天モバイルの三木谷浩史会長は「通信品質の改善に安心して投資できなくなる」と懸念を示す。
通信各社の経営陣が強い言葉でNTT法存続を訴えるのは、NTTが通信業界で特別な地位を占めているからだ。競合各社の代表の言葉からは、NTT法を廃止するとNTTに対する制約がなくなり、NTTが独善的な企業運営に走るのではないかという懸念が見て取れる。
その結果として、競争環境がなくなって通信料金が高くなる、過疎地域の光サービスが提供できなくなるといった「国民の利益が損なわれる」(三木谷氏)事態が生じるという。
NTTグループの役割はNTT法と電気通信事業法で規定されている
NTTグループには、2つの側面がある。1つはフレッツ光やNTTドコモなどの通信サービスを提供して利益を上げる収益企業という側面。もう1つは、通信網を整備して他の企業に低廉な価格で貸し出す公益企業としての側面だ。
後者の公益企業としての役割は、NTT法と電気通信事業法という2つの法律で規定されている。NTT法はNTTの組織としての在り方に制限を課している。電気通信事業法にはNTTの通信サービスのうち一部の機能を他社に貸し出す義務が規定されている。2つの法律により、NTTは組織体制と事業運営の両面で制約が課されているといえる。
NTTが保有する「特別な資産」とは?
NTTになぜ義務が課せられているのか。それは、旧電電公社から引き継いだ「特別な資産」を保有しているためだ。
ここで言う「特別な資産」とは、この設備はインターネット接続など通信サービスを提供する上で欠かせない設備のことだ。通信業界の用語で「ボトルネック設備」と呼ばれている。
具体的には、まず全国に7000カ所に立地するNTT局舎がある。そして、光ファイバー網を通すために、都市部の地下などに張り巡らされた「とう道」と呼ばれる地下トンネル(650キロ)。地中にケーブルを配線する管路(全国60万キロ)とその中を通る光ファイバー、全国1190万本の電柱がある。そしてそのボトルネック設備を配置するためのNTTの所有物だ。
NTTが所有するボトルネック設備の規模は非常に大きく、競合事業者が同じものを新たに整備するのは不可能だ。そのため、電気通信事業法で他社への貸し出しを義務付ける規定があり、KDDIやソフトバンクのような競合事業者は、この制度を利用してボトルネック設備を借り受けてサービスを提供している。
言い換えると通信ネットワークを提供するには長大な光ファイバー網を全国に引く必要があるため、自然的に独占状態が生じてしまう。この状態を回避するため、日本ではNTTに通信網を整備して、各社がその設備を借り受けて事業を運営する形を取ることで、競争を発生させているという構図だ。
今回異議を唱えた181者の内訳は、KDDIとソフトバンク、楽天モバイル、ケーブルテレビを提供する企業や自治体、ISPなどだ。これらの事業者はNTTの競合として事業展開をしているが、同時にNTTの通信基盤を利用してサービスを提供する立場でもある。
NTT法の廃止で何が起こる?
それでは、NTT法が廃止されると、どのような課題が懸念されるのか。反対各社は「公正競争」「ユニバーサルサービス」「外資規制」という3つのポイントから電気通信サービスの運営に影響が生じると指摘する。
公正競争の懸念は、NTTに「ボトルネック設備」の価格決定権が与えられた場合に、競合他社に不利な条件を課すのではないかという仮定だ。
楽天の三木谷氏は「もし私がNTTの立場からフリーハンドで経営できるなら、NTT法廃止後に利用料を20%値上げすれば莫大(ばくだい)な利益が出ると考えるだろう。それを電気通信事業法でけん制する規定はないし、新たに規制するのは難しい」と話し、そのような行為を規制するNTT法の存在意義を強調した。
2点目のユニバーサルサービスとは、固定電話などの基礎的なサービスを、過疎地域に対しても提供するという枠組みだ。日本ではNTT東西がユニバーサルサービス制度の担い手とされており、加入電話と公衆電話、緊急通報に関して全国での整備を行ってきた。
なお、固定通信サービスは制度上含まれていないが、ソフトバンクの宮川氏は「将来の日本のために、ユニバーサルサービスに追加するように再考するべきだ」という考えを示している。
外資規制については、外国人などの議決権割合を、NTTの株式全体の3分の1未満とするように制限している。反対各社は、この規定を維持するように主張している。外国人株主の圧力により、NTTの公正競争維持やユニバーサルサービスの方針に影響が生じかねないという懸念があるためだ。
ケーブルテレビ会社にとってのNTT法
今回反対表明を行った「181者」の大部分を占めているのは、ケーブルテレビ事業者だ。今回の反対意見には125者のケーブルテレビ事業者が賛同している。
ケーブルテレビ事業者は、地域に密着した放送と通信サービスを提供している。人口減少で経営環境が悪化する中で、NTTが仮に利用料の値上げを行えば死活問題になりかねない。日本ケーブルテレビ連盟の村田太一専務理事は「ボトルネック設備を他社との競争目的で利用された場合、明らかに不利な立場に置かれる」と主張する。
その上で、村田氏は「現状でも、NTTは電柱の利用申請を多く拒否している」と言及した。ケーブルテレビはNTTの電柱を多く利用しており、200事業社の合計で電柱を220万本以上利用しているという。NTTが電柱の理由を拒否する事例では、「電柱に重量制限がある、電柱の建設登録が済んでいない、NTTの資産に計上されていないといった理由で拒否されている」している。
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