NTT法を巡る議論 「NTTの見解」にKDDI、ソフトバンク、楽天モバイルが反論 「口約束に保証はない」
KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの3社が、NTTが発表した「NTT法のあり方についての考え」について反論。NTTは「公正競争はNTT法ではなく、電気通信事業法で規定されている」と述べるが、3社は、競争は電気通信事業法とNTT法の両輪で機能すると反論。不採算エリアで電話サービスが提供されなくなる恐れも指摘した。
KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの3社は、NTTが10月19日に発表した「NTT法のあり方についての考え」についての見解を発表した。
NTT法(日本電信電話株式会社に関する法律)は、NTT持株会社やNTT東西の事業内容、国の関与について定めた法律。政府や総務省では、NTT法の廃止を含めたNTT完全民営化の可能性について議論しており、その中でNTTはNTT法を廃止すべきとの意向を示している。
これに対し、国民生活に影響を及ぼす恐れがあるとの理由で、競合他社はNTT法の廃止に強く反対。具体的には、「公正競争が損なわれる」「日本全国で電話サービスが提供されなくなる」「通信インフラの安全保障が損なわれる」という3つの懸念点を挙げる。10月19日に、通信事業者や地方自治体など180者が、NTT法見直しに関する要望書を提出した。
一方、NTTも同日にNTT法の在り方についての考えを発表したが、その考えに対してKDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの3社が反論した。10月31日には記者向けに説明会を開き、KDDI 執行役員 渉外・広報本部長の岸田隆司氏、ソフトバンク 執行役員 渉外本部 本部長の松井敏彦氏、楽天モバイル 渉外統括本部長の鴻池庸一郎氏が意見を述べた。
NTTは、もともと国営事業だった日本の通信サービスを継承しており、30年かけて構築してきた「特別な資産」(3社)を有している。この特別な資産には、局舎、電柱、とう道、管路などが含まれる。土地は東京ドーム約370個分、管路は地球15周半、電柱は約1190万本、光ファイバーは約110万kmに及び、競争事業者が新たに構築できない規模だとしている。設備投資額は25兆円だが、現在の紙幣価値だと40兆円に相当するという。これら特別な資産の上で、モバイル通信サービスや固定ブロードバンドサービスをNTT東西や各通信事業者が提供している。
こうした前提がある中でNTT法を廃止することに、3社は断固反対であり、時代にそぐわない部分を改正するだけで十分だというスタンスを取っている。これに対し、NTTは、必ずしもNTT法で規定する必要はないとの考えを示している。
「口約束で合併しないといっても、何ら保証がない」
1つ目の公正競争について、NTTは「公正競争はNTT法ではなく、電気通信事業法で規定されている」と反論するが、3社は、競争は電気通信事業法とNTT法の両輪で初めて機能するとの認識。「NTTは、(設備の)貸し出しルールには言及しているが、(グループの統合や一体化防止など)組織の規定には触れていない。ここが抜け落ちているのは重大な問題だ」と岸田氏は指摘する。
NTTは「NTT東西とドコモを統合する考えはない」とも述べているが、「口約束で合併しないといっても、何ら保証がない」と松井氏は一蹴する。また、同氏は電気通信事業法とNTT法では、法律の立て付けが異なるとの見解も示した。
「(電気通信)事業法は、あまねく電気通信事業者が、その規律にのっとって事業をやっていく上でのベースになるが、非対象規制が一部入っている。シェア(固定系は50%)がベースなので、NTT東西がグループ会社に自社の設備を継承すると、シェアをコントロールできる。50%を割るかどうかが変わってくるし、シェア自体も変更できる。事業法で担保することは難しい」(松井氏)
また、NTTは特別な資産を引き継いでいる特殊法人のため、松井氏は「シェアとは次元が違う話。NTTの私権を制限することを(電気通信事業法に)含めるのは現実的ではない」とも述べる。NTTが資産を持ち続ける限り、NTT法の役割は終わらないとの考えも改めて示した。
岸田氏は、もともとNTTから分社化したドコモがNTTの完全子会社となったことにも懸念を示している。「ここにきて、NTT再統合の流れが出てきていて、競争を阻害しているのではないかと危惧している」
松井氏は、「特別な資産を持っているところ(NTT)とドコモが今以上に結び付くのは危険」と話す。
「NTT東西の光ファイバーはドコモもKDDIもソフトバンクも楽天も使っているが、NTTグループの中では高止まりしようが財布は痛まない。いくら公正でも、ドコモに有利なルールになってしまう恐れがある。接続ルールは今もあり、公平に貸してもらっているが、NTTグループに最適化された接続ルールでやっている。公平にやっているからといって、NTTとイコールフッティングだとは思っていない」(松井氏)
不採算エリアで電話サービスが提供されなくなる恐れ
2つ目の論点として、ユニバーサルサービス、つまり電話サービスが日本全国で提供できなくなる恐れを3社は指摘する。「全ての世帯に電話を提供する義務があるので、勝手に撤退してはいけない。NTT法が廃止されると不採算エリアの撤退が可能になり、ユーザーの不利益になる。電気通信事業法に統合可能だとおっしゃるが、現状、少なくとも事業法には書かれていない。撤退できないところを担保することが重要だ」と岸田氏は述べる。
裏を返せば、電気通信事業法でユニバーサルサービスの提供義務を規定すれば問題ないともいえるが、そのような結論には至っていない。「6000万の固定電話ユーザーがいるので、このユーザーをまず守らないといけない。事業法の規定が全く議論できていない中で、NTT法の役割が終わったというのは乱暴な話」(岸田氏)
NTTは、手を挙げない事業者がいる地域(ラストリゾート)については、条件が整えば責任を持つと述べているが、「整わないとやらないとも解釈できる。そこに対するコミットメントはないのでは」と松井氏は指摘する。特別な資産を持つ以上、ラストリゾートだけでなく、日本全国で電話サービスを継続する義務があるというのが3社のスタンスだ。
固定電話は減少傾向にあり、NTT東西の加入電話は2023年6月時点で1314万契約だが、光IP電話などを含めれば約6000万契約ある。「あまねく提供義務」の範囲となっている固定電話サービスの需要はいまだ存在しているため、この義務の意義は失われていないことも3社は主張する。
3つ目の外資規制について、NTT法では、外資比率を3分の1以下に定めているが、NTTは「外為法(外国為替および外国貿易法)やその他の法令などで、主要通信事業者を対象とすべき」と主張する。これに対し、岸田氏は「外為法は、全ての会社に関わってくるものなので逆行する」と反論。やはり、NTTが特別な資産を持っている限り、他の事業者と同列で扱うべきではないと主張した。
平行線をたどる両者の議論
NTT側は、「公正競争に関する規定は電気通信事業法にも規定されている」「NTT東西とドコモは統合しない」と主張するが、他社は「組織の在り方については規定されていない」「口約束は信じられない」との主張が続いており、議論は平行線をたどっている。両者が対話をする場があればいいものだが、「NTTから急に上がってきて、審議会、自民党を含めて議論を始めていくのが実情」(松井氏)とのことで、双方の議論が不足しているようにも見える。
岸田氏が「順番の問題」と話していたように、仮に電気通信事業法にNTT法のみにある規定を取り入れるなら、NTT法廃止の前に、電気通信事業法の改定を先にすべきだろう。早急に結論を出すのではなく、ユーザーの利益を最優先に考え、順序立てて議論を進めてほしいと思う。
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