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ドコモ完全子会社化の背景にある“危機感” 法制度上は「問題ない」とNTT澤田社長

NTTがNTTドコモを完全子会社することが9月29日に決定した。NTTの澤田純社長は、ドコモの収益が3番手になり、競争環境が変わったことから完全子会社化を決めたという。一方で公正競争を阻害するのでは? との懸念については「法制度上は問題ない」との認識を示した。

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 NTTがNTTドコモを完全子会社することが9月29日に決定した。同日にNTTとNTTドコモが共同記者会見を開き、NTTの澤田純社長とドコモの吉澤和弘社長が、子会社化の背景とロードマップを語った。そこで強調されたのは、市場環境の変化がもたらした“危機感”だった。

NTTドコモ
共同記者会見で説明をするNTT澤田純社長(左)とNTTドコモ吉澤和弘社長(右)

ドコモの収益は3番手に落ちている

 澤田氏は「固定通信と移動通信の垣根がなくなるとともに、通信レイヤーを超えた市場競争が展開されている。アフターコロナの社会を展望すると、リモートワールド、分散型社会が基本となる。グローカリズムが変質して大きな変化が想定される。NTTグループとして、グローバルレベルでのダイナミックな経営環境に対応していく必要があると考えている」と話す。

NTTドコモ
NTTは、情報通信市場の環境と社会トレンドの変化を背景に挙げる

 吉澤氏は「通信事業での競争がますます厳しくなり、非通信分野では異業種との競争も加速している。5G時代ではお客さまニーズがさらに多様化している。社会環境が変化する今だからこそ、私たち自身が、モバイル中心の事業領域をさらに拡大して、社会の期待やニーズにトータルで応えられる存在へと変革する必要がある」と話す。

NTTドコモ
ドコモも市場環境の変化を背景に挙げる

 ドコモがNTTの完全子会社になってサービスの創出力や通信ネットワークの競争力を強化することで、「ドコモはNTTグループの中核を担い、全てのお客さまのフロントとして、トータルサービスを提供する存在になる」と吉澤氏は意気込む。

NTTドコモ
子会社化により、ドコモはサービス創出力や通信ネットワークの競争力強化を目指す

 具体的な施策としては、NTTコミュニケーションズやNTTコムウェアも含めたグループの経営資源を活用して通信事業の競争力を強化する。また法人ビジネスやスマートライフ事業、研究開発体制の強化も目指す。

NTTドコモ
ドコモが掲げる具体的な施策

 澤田氏は「ドコモは6Gを見据えた通信基盤を、移動・固定融合型で推進し、上位レイヤービジネスまでを含めた、総合ICT企業への進化を目指してほしい」と期待を懸ける。

 ドコモの完全子会社化について、NTTからドコモに具体的な話を始めたのは2020年4月後半頃だったという。「ドコモはシェアは大きいが、収益は(キャリアの中で)3番手に落ちている。春の段階で明確になっている」と澤田氏。実際、2019年度通期の営業利益は、ドコモが7065億円、KDDIが1兆252円、ソフトバンクが9117億円であり、ドコモが2社を下回る結果となっていた。

 またGAFAをはじめとする海外企業に対しても澤田氏は「危機感がある」と述べる。吉澤氏も「MNPでビハインドがあり、純増そのものがマイナスの方向に行っている」と現状を述べた。市場環境が変わってドコモが苦戦を強いられていることが、大きなきっかけであることを示した。

完全子会社化と料金値下げ、直接は関係ない

 ドコモを完全子会社化すれば上場廃止になり、株主に配慮する必要がなくなることから政府の料金値下げ要望に応えやすくなる――という見方もあるが、澤田氏と吉澤氏は「本件と値下げが結びついていることはない」と否定する。ただ、ドコモを子会社化することで「財務基盤は整うので、値下げの余力は出てくる」と澤田氏。結果として値下げをしやすくなることについては認めた。

 「サービスの創出力やネットワーク競争力を強化した結果として、お客さまのニーズに合ったサービスが出ると同時に、低廉で使いやすいサービスを実現していきたい」(吉澤氏)

「法制度上は問題ない」との認識

 一方で、NTTとドコモが連携を強化することで、電気通信事業の独占を強め、公正競争の阻害につながるのでは? という懸念もある。これに対して澤田氏は「ドコモのシェアは40%で、他社は20〜30%。NTTグループがとても大きいという数十年前の市場ではない」と述べた上で、NTTによる100%子会社化やNTTコミュニケーションズ/コムウェアと連携することは「法制度上は問題ない」との認識を示す。

 電気通信事業法で定められている禁止行為規制は、NTT東西とNTTドコモが対象となっている。例えばNTT東日本がドコモに対して優先的な連携を行うことは禁止されているが、NTTによる完全子会社化がそこに抵触するわけではなく、NTTコムらは禁止行為規制の対象になっていない。「ソフトバンクとKDDIは、競争上負けるかもしれない」(澤田氏)が、それはあくまで公正な競争に基づくものだというのが澤田氏の考えだ。「私たちが一方的に強いという状況ではなく、収益は3番手。どう勝っていくかの方法論を考える」(同氏)

 NTTコミュニケーションズ/NTTコムウェアのドコモへの移管も視野に入れているが、具体的なことは決まっていない。「どのような形で組織的に整理するかはまだ検討を始めていない。吸収合併かどうかまでは議論が足りない」(澤田氏)

NTTドコモ
ドコモを完全子会社化した上で、NTTコミュニケーションズ/コムウェアをドコモへ移管することも検討していく。なおNTTデータについては完全子会社化する考えはないとのこと

 固定通信も含めると、NTTとドコモの市場シェアはさらに大きくなるが、この点についても「法制度上の問題はないと受け取っている」と澤田氏は繰り返す。「固定は7割ぐらい(のシェア)だが、ご存じのように、法律で事業範囲が規定されている。ドコモに限らず、他社にも同じ条件でインフラを卸している。ドコモだからということでNTT東西を有効的に利用していない。NTT東西は法律に従って動きながら、それ以外の競争領域でドコモを強くしている。そういう説明を規制当局や総務省にした」(同氏)

【訂正:2020年9月30日1時30分 初出時に冒頭で「法制度上は『問題』」としていましたが、正しくは「法制度上は『問題ない』」です。おわびして訂正致します。】

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