NTT島田社長、他社の“NTT法廃止反対”について「誤解がある」と反論 「世界では20年前に終わっている議論」
NTT島田明社長が、NTT法の見直しについて、決算会見で改めてコメントした。公正競争の規制は、電気通信事業法でも規定されており、必要ならNTT法の規制を電気通信事業法に統合すればいいという考えは変わらない。競合他社の意見については「誤解がある」点も指摘した。
NTTの2023年度第2四半期の決算会見で、NTT島田明社長が、NTT法の見直しについて、改めてコメントした。
政府や総務省では、NTT法の廃止を含めたNTT完全民営化の可能性について議論しており、その中でNTTはNTT法が廃止になるとの考えを示している。これに対し、競合他社は「公正競争が損なわれる」「日本全国で電話サービス(ユニバーサルサービス)が提供されなくなる」といった理由から、NTT法の廃止に強く反対する。
公正競争については、競合他社はNTT東西とNTTドコモが合併し、NTTグループの一体化が進むことを懸念しているが、島田氏は「NTT東西とNTTドコモを合併する考えはない」と言い切る。NTT東西は電気通信事業法にのっとって公平にネットワークを提供し、NTT東西はドコモ以外の事業者との取引も拡大していくとしている。
NTT側は、公正競争の規制は電気通信事業法でも規定されており、必要ならNTT法の規制を電気通信事業法に統合すればいいという考え。東西とドコモが合併しないと言っても、口約束にすぎないと競合他社は指摘するが、島田氏は「事業法の中に追加すれば問題ない」との姿勢は変えない。
「事業法には、ドコモと東西の役員兼務が禁止行為として規制されている。そこに、ドコモと東西の合併がだめだと書き足せばいいのでは? 乱暴な議論だが、そういうことはあり得ると思っている。事業法の中にいろいろな規定を作っていける。海外の主要国は全部事業法で規定している。日本はなぜ事業法で規定できないのかを教えてほしい」
「NTTは特別な資産を引き継いでいる特殊法人だからユニバーサルサービスを提供する義務があり、それを事業法で同列に規定すべきではない」との意見にも「立法論を誤解されている」と島田氏は反論する。この点については、法制的に問題がない旨の意見を、元内閣法制局長官・最高裁判事の山本庸幸氏から得ているという。
山本氏は「事業法で一定の要件に該当する事業者に対して、法律上の義務を課すことは一般的に行われているので、NTT法によらなくても、事業法でユニバーサルサービスを規定することは十分可能」との意見を示している。
また島田氏は、ユニバーサルサービスの考え方についても「誤解」があると指摘する。KDDIやソフトバンクは、固定電話は約6000万回線あると説明していたが、これはひかり電話サービスも含めた数。NTT法で規定されている電話役務は、いわゆる加入電話(メタル設備を用いた固定電話)のみで、契約数は約1350万。その他の電話サービスは、電気通信事業法で規定されている。
「ひかり電話がユニバーサルサービスというなら、赤字のところがあるので、補填金をいただかないといけないが、われわれはいただいていないので、定義は明らか」(島田氏)
NTT東西としては、光設備を用いた固定電話サービスは引き続き提供していく考えだが、メタル設備を用いた電話サービスは利用が減少していることから、メタル設備は撤退せざるを得ないとの考え。モバイルや衛星も含めて、電話サービスの在り方について議論すべき時期に来ていると主張する。つまり現在の電話サービスはNTT法と電気通信事業法の両方で規定されているため、これを電気通信事業法に統合する方がよい、との考えのようだ。
「今の時代、メタルのあまねく普及の議論をしても意味がない。ブロードバンドをどうやって普及させていくか。いろいろなテクノロジーが進化しているので、そういうテクノロジーをいかに国民の皆さまに享受していただくか。少し先を見据えた議論をすることが、今回の見直しでは大きな要素になる。後ろ向きの話をしても未来は生まれてこない」(島田氏)
国から承継した資産について、島田氏は「民営化時に政府に株式を割り当てた時点で、資産は政府に帰属する。その後、3分の2を民間に売りに出したので、最終的な帰属は3分の2が民間だ」と主張する。
また島田氏は、米国、英国、フランス、ドイツなど、世界の主要国では特殊法人法を廃止し、ユニバーサルサービスは事業法で規定している事例にも言及する。「欧州では2002年や2004年に(特殊法人法は)形を変えている。この議論は世界で20年前にしている。20年もたって同じ議論をするのか」と疑問を呈した。
島田氏は、NTT法は結果的に廃止になる――というスタンスが当初から変わらないことにも言及した。
「別に頭から廃止しろと言っているわけではない。電話のユニバーサルサービスもちゃんと事業法の中に統合して、ブロードバンドの中に位置付けた方が国民生活にとっていいでしょうと。音声はブロードバンドの中のアプリケーションみたいなもの。社会や人々が何を求めているのかを明確にして、それを提供していく仕組みが重要だと思う。ユニバーサルサービスはコストがかかるので、国民のコスト負担を少なくしながら、最良のサービスを考えていくバランスが重要」(島田氏)
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